理想のガラスペンをつくる

 

ガラスペンを、作る。

そんなことができるのだろうか?それも、自分の理想のデザイン、理想の書き心地のガラスペンを。

 

万年筆とインクに憧れて、東京の蔵前にある「インクスタンド」でオリジナルのインクを作ったのは2年前のこと。

万年筆はインクを替える際に手順が必要になるけど、ガラスペンは水で濯ぐとすぐにほかの色のインクをペン先につけることができる。扱いやすさも含めて、ガラスペンは次なる憧れになっていた。

文具店でガラスペンが並んでいるのを見かけると、この中だったらどれを選ぶかなと注目するようになって、でもなかなか、これ欲しい!と思うものは見つからない。

 

ある日、ネットで「ガラスペンで書くお手紙教室」というワークショップのお知らせを目にした。

そこには、“世界にひとつだけのオリジナルガラスペンを作ってお手紙を書こう”とあって、

まず、ガラスペンって作れるの?!という驚き。さらに完成したペンでお手紙を書く。宛名のないファンレターというブログ名からして、これ以上ないほどぴったりな企画だ!と思った。

しかも早めに予約をすると、希望のデザインを伝えてパーツを用意してくださるとのことで、参加をすぐに決めた。

 

今使用しているブログのアイコンも、ロゴも、名刺も。

タイトルからイメージを伝えて、ひとつずつ揃えてきた大切なもの。だから初めて持つガラスペンも、イメージは“宛名のないファンレター”で、アイコンになっているオレンジとイエローのカラーでお願いすることにした。

 

ワークショップ当日。

場所は吉祥寺の「ガラススタジオブリエ

慣れていない吉祥寺…細く入り組んだ道にさまよって、少し遅刻してしまう痛恨のアクシデント。それでも丁寧に迎え入れてくださり、ワークショップがスタートした。

「どちらになさいますか?」と聞かれた先には、いくつか並んだペンの持ち手部分。

アンバーにイエローのグラデーションが、後ろに向かって透き通ったガラスに変化していくデザイン。その先に、花が咲いたような、波のようにも見える加工がされている。すごく気に入って、これにしようと決めた。

ペン先との間にある丸の部分には気泡が入るデザインで、選べたペン先は真っ直ぐよりもねじりのある形を選択。

 

エプロンをして、炎の光から目を守るためサングラスをかける。普通にしていると目がダメージを受けるほど、炎は明るく光ることを初めて知った。

まずはガラスペンの作り方を、ガラス細工作家をされている、でんこさんから教わる。

超高温のバーナーを真ん中に配置した体制で、右手と左手どちらも動かしながら、溶かして丸めてくっつける。ガラスは高温になると発光するだけでなく、丸くなろうとする作用があると学んだ。

炎を相手に作業をするというだけでビビり倒してしまう自分が、本当に出来るのだろうかと戦々恐々としながら、まずはお手本をじっと見つめる。

失敗したらどうしようと恐くなるけど、ガラスは熱して溶かすとまたやり直しができる。そのことにちょっと安心した。先生に見守ってもらいながら、タイミングは声かけをしてもらえる。言われた通りにさえ動けたら、よほどの失敗はせずに作れるとわかった。

ワークショップではサポートをしてもらえるから、なんとか初めての自分にも出来たものの、ガラス細工は簡単じゃないということも実感した。

炎を使って、刻々と形を変えて溶けたり固まったりしていくガラスを相手に、理想の形を手作業で作る。焦ってもいけないし、のんびりしすぎてもいけない。その塩梅の難しさが、ガラス作品の美しさを生んでいるのだと思った。

 

ガラスペン作りの最後は、ペン先の太さと書き心地を好みに調整する。

ガラスペンといったら細い線でガリガリとした書き心地のイメージで、ここまで細かく調整できると思わなかった。

いつも使うボールペンをカバンに入れていたおかげで、好みの0.7の線に近づけていくようにしてヤスリをかけた。書き心地は肝心要だと、何度も微調整を繰り返し、こだわったおかげで理想形そのものの大満足なペン先が出来た。

 

そしてついに、ガラスペンが完成した。

 

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作業を始める前は、無理ですー…!と弱音を言いたい気持ちになったけど、優しくアドバイスを交えて教えてもらえて、緊張を和らげながら作業ができた。

 

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そしてここからは、お手紙のワークショップに。

yokoさんが、手紙を楽しむポイントやインクの話、切手の話をしてくれる。自分も郵便局好きだと自覚していたけど、知らなかったこともあって、これからはどの場所から手紙を出すのかにもこだわりたくなるなと思った。

ずらりと並んだインクの中から、気に入ったものを選んで、先ほど作ったばかりのガラスペンで手紙を書く時間。

自然と書きたい相手は思い浮かんだ。初めて手に持つガラスペンの感覚を確かめながら、一文字ずつおずおずと書く。

色彩雫」の月夜というスモーキーなブルーのインクで本文を書いた。インクが並んでいるのを見ると、あれもこれも試したくなる。ずっと気になっていた、夕焼けと名前のついたオレンジ色のインクは、多くインクの乗った部分の深みと薄付きになった部分の明るさにコントラストがあって、これはいいとお気に入りのインクになった。今度買うことにする。

 

 

雨降りの日だからか、室内の音と同じように外の音も静か。自然と集中できる空間だった。

お隣のお店から流れてきたBGMが米津玄師さんの「Lemon」で、今日は聴く曲聴く曲ぴったりきすぎているなと思いながら、ペン先をインクにつけて手紙を書く。

 

手紙を書き終えて、封をして、切手も貼って。あとはポストに投函するのみ。

ワークショップは、これでおしまい。

この場所にしっくり落ち着いてしまって、帰るのが名残惜しくなったけど、ありがとうございましたとお礼を伝えて、ガラススタジオブリエを後にした。

 

 

手紙をすぐにポストに投函したかったけれど、宛名が分からず、ワークショップ中に連絡してみた。

返事はここに居るうちには間に合わないかもと思いながら駅へ向かって、駅の前にポストを発見。あらためてスマホを確認したら、返事が!

すぐにその場でボールペンで宛名を書いて、ポストにコンッと入れた。

 

初めて行く場所、やったことのないガラス細工。ハードルが気にならなくなるくらい、興味が上回ったおかげで、新しいことに挑戦できた。

ガラスで出来たペン。不思議と背筋がしゃんとして、紡ぐ言葉も自信を持って丁寧に書ける。

このペンで手紙を書いたり、ファンレターも書きたい。大切に持ちながら、積極的に使っていこうと思う。

 

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