「アラジン」を字幕と吹き替えで観て、感じた印象の変化

 

まずは字幕で、2度目は吹き替えで観た。

この順番が自分的にはすごくしっくりきたので、もしも観に行くか、どの順番で観るかを迷っている方にはおすすめしたい。

 

最初に字幕を選んだのは、メナ・マスードさんの演じるアラジンと、ナオミ・スコットさんの演じるジャスミンが見たかったことと、アラビアの街などのシーンであの場の空気と一緒に喋る声が聞きたくて。

吹き替えになると、声がクリアに聞こえる分、布の擦れる音や物音のボリュームに生じる空気感の差が、ひとつの層にコーティングされてしまう音の印象があるからだった。

 

初めに観た字幕版は、ジャスミンが印象深く残るストーリーになっているように思えた。

個人的にはアラジンのリアクションを見ているのが楽しくて、困り顔や戸惑い顔、ジーニーとのわちゃわちゃに終始注目していたけど、新曲を歌っていることもあって、ジャスミンの存在感は抜群。

初見でストーリーをなぞるのにも精一杯だったりして、どうしてもアニメーションとすり合わせた見方になってしまって、シンプルに作品の勢いに乗れていたかと言うと、アニメーション寄りな気持ちに偏って観ていた。

字幕版の魅力は、曲の歌詞がほぼアニメーションから変わっていないこと。

アニメーションの英語版「ホールニューワールド」の歌詞に馴染みのある人は、字幕のほうが違和感なく馴染めると思う。

 

 

期間を空けて、吹き替えで観た2回目。

ゆとりを持ってストーリーを追えるということを足して引いても、アラジンとジーニーの友情が際立っていた印象になった。

吹き替えもどうしても観たかったのは、ジーニーでありウィルスミスさんの声担当でもある山寺宏一さんが、再びジーニーを…!!という期待と、中村倫也さんがアラジンの声をどう演じるのか見届けたくて。

日本語訳のニュアンスによっての印象の変化か、山寺宏一さんのジーニーの存在感がアラジンありきで増すことでの変化なのか。

今回の実写版に関して、声の好みで聞かれたらどちらも魅力があるので選べないけど、ストーリーの印象でどちらが好みだったかと聞かれると、吹き替え版のほうだった。

吹き替え版の日本語訳での解釈がぴんときたというのは大きい。

 

吹き替えキャストが発表されて、初披露などで表舞台に出ることが増えた時に、ジャスミンの声を担当している木下晴香さんの佇まいが素敵だなと感じるようになった。

ジャスミン役に選ばれた喜びや、アピールしたい気持ちを持ってもおかしくないのに、凛として立っている姿が印象的で、木下晴香さんにとってのジャスミンというキャラクターへの尊敬と憧れを感じた。

ご本人が可憐な印象だったから、声のイメージも、か細く柔らかな声にするのかなと思っていたら、喉をしっかり使った低音の声で、芯のある性格が伝わる声色にドキッとした。

 

中村倫也さんの声は、耳に心地よく、自分にとってのアラジンのイメージぴったりだった。

アラジンの声を当てるのはとても難しいだろうなとキャラクター性を見ていても思う。少年っぽさと、色男な感じのバランス。

アニメーションのアラジンの顔が、ハリウッド俳優さんたちのハンサムフェイスを掛け合わせた顔だから、ハードルは高く、きっと演じるのも難しい。

だけどそれがぴったりで。ミルクティーみたいな声をしているなと思いながら観ていた。中村倫也さんがディズニーの目にとまる今のタイミングで、実写版吹き替えのお仕事があったことは奇跡の巡り合わせだと思う。

 

 

ストーリーの中で、ジャスミンの感情が大きく動くシーンでの歌「スピーチレス」

感情が溢れ出すシーンで、曲の印象がばんっときたから、それより前に同じメロディーが出てきていたことに2度目まで気がつかなかった。

ジャファーから、楽になる方法がある、黙っていればいいと囁かれた屈辱的なシーンの後、心がすり減り、力なく呟くように歌っていたジャスミンが歌うシーンがある。

あの歌と同じだとは。エネルギーと決意が全く違い、別物のようだった。

アラジンがジャスミンとダンスをするシーンでも、同じメロディーがリフレインのようにアレンジされてこっそりと流れていた。

 

このシーンで、木下晴香さんの歌の素晴らしい表現力に感動した。

ホールニューワールドを歌う木下晴香さんの声と、スピーチレスを歌う木下晴香さんの声は、声色が全く別物で、本当にすごい。スピーチレスのこぶしに近い歌い回しと息継ぎさえ忙しい勢いのあるメロディーに一切遅れることなく歌い上げていて、

あのシーンは現場にいてこそ高ぶる感情のようにも思えるのに、現場で演じてその時の感覚で歌ったナオミ・スコットさんと同じテンションで木下晴香さんは歌った。それがすごい。

ストームのように巻き起こる怒りをエネルギーに変えて、怯えながら、でも確かに踏み出す一歩。

 

なぜ、木下晴香さんの声で演じるジャスミンに魅了されるのだろうと考えていたら、YouTubeにディズニーが掲載していた吹き替え版キャスト座談会でその謎が解けた。

ジャスミンの印象を聞かれた木下晴香さんが、

「今回すごく力強い女性として描かれてる、あの…イメージも強いですけど、なんかその根源にあるのは優しさだなってすごく私の中では思っていて、

なんか本当に…国民とか、他人のことを思って、すごく深く思ってるからこそどこまででも強くなれている女性だなって思って。

あと、乙女なところも、しっかり持ってる。すごくお茶目な、チャーミングな女の子の顔をするシーンがこうあるじゃないですか?

そこに女子の私でもすごいキュンとしちゃって。恋してる…顔を見て。」

と話していて、まさにそうだ…とうれしくなった。

自立していて、強い女性像。それはもちろん魅力であるのだけど、物静かだったり、ロマンスに憧れる一面も素敵なのではないかなと自分は思う。

だから、強くあれ!というメッセージ性だけではなくて、今回の実写化されたジャスミンにチャーミングな一面を感じながら声をあてられた“木下晴香さんのジャスミン”に、惹かれるのだと思った。

 

 

「アラジン」が実写化すると聞いた時、アラジンのキャスティングやジャスミンのキャスティングよりも先に気になったのが、ジーニーのことだった。

映画公開が決まれば、日本語吹き替えがある。

ジーニーを吹き替えるのは誰?

アニメーションをずっと見てきた。山寺宏一さんが声で演じるジーニーの魅力は今ここで語りつくせないもので、

その憧れが募り、D23 Expo Japanが舞浜で開催された最初の年、「ディズニー吹き替えの秘密」というステージのチケットが当選して、私はそこで初めて本物の山寺宏一さんを見つめ、ジーニーの「フレンドライクミー」を聴いた。

圧巻の歌声だった。本当に目の前で歌っているのだろうかと、目の前にしてもなお実感が湧かないほどに。

 

しかし今回は、実写版の吹き替え。

アニメーションとは違ったものになる。

ジーニーを演じているのはウィルスミスさんで、それをアニメーションのジーニーのまま塗り替えてしまうと、実写版ではなくなってしまう。

でも、字幕を観てから吹き替えを観に来たのは、やっぱりあのジーニーが恋しかったからだった。

山寺宏一さんが吹き替えたジーニーは、ジーニーで、しかもウィルスミスさんが演じているジーニーだった。正確に言うと、ウィルスミスさんの要素に、山寺宏一さんからのジーニーへの愛情を、魔法の粉としてひとつまみ振りかけているような。

 

実写版の吹き替えを観てジーニーとアラジンの友情を感じられたのは、幼い頃から見てきたジーニーへの信頼と安心感があったからだとも思う。

日本語の歌詞と台詞として、度々登場した“最高の友達”のフレーズ。やっぱりここにグッとくる。

それによって、アラジンとジーニーの関係性も、アブーも絨毯くんにもスポットライトが当たる感じがする。

山寺宏一さんの声には、眉を下げてまったく君ってやつは…とアラジンを見守る表情がある。実写版になっても変わらなかったその関係性に、ほっとしてうれしくなった。

 

オープニングのストーリーテラーとして重要な曲「アラビアン・ナイト」も素晴らしかった。

ウィルスミスさんの歌声の迫力を聴いてから、山寺宏一さんの歌声を聴く順番になったけれど、山寺宏一さんの歌の迫力にぞくっとした。

声の厚みと説得力で、一気にアグラバーの世界へと引き込まれる。

 

さらに、ジャファー。

おじさんなイメージだったジャファーが、実写版ではわりと若々しいことにギャップを感じていたけど、北村一輝さんの声になることで歳の幅が広がって風格が漂っていた。

字幕を観て、ジャファーの相方イアーゴがかなりオウムに返ってしまっている寂しさもあったけど、日本語が自分には聞き取りやすいからか吹き替え版では勝手なお喋りもしている印象だった。

もちろん英語でもイアーゴはお喋りをしている。ただオウム返しな印象は、英語のほうが強く感じた。

 

同じ作品を見ていても、英語の台詞、日本語字幕、日本語吹き替えで、こんなにバリエーションがある。少しずつニュアンスが違い、それによって楽しみ方は何通りもある。

同じ作品を観ても、印象は繊細に変化することを知ったので、これからもまたディズニー作品の公開を楽しみに、字幕も吹き替えも観に行こうと思う。

今回の「アラジン」では、吹き替え版のエンドロールが主演キャストだけではなく、ほかの方々のお名前もしっかりと載せていたところが素敵だったので、これが続くといいなあとも思った。

 

この先もずっと残っていく実写版「アラジン」の吹き替えを、中村倫也さん、木下晴香さん、山寺宏一さん、北村一輝さんたちが担当されたことの喜びを噛み締めて、

叶うならもう一度、映画館へと足を運びたい。