カラフルさと落ち着きのバランス。舞台「泥棒役者」セット・照明の魅力

 

泥棒役者」について、映画から数えると、こんなにもいくつも書いておきながらまだ書くのかというのは自分が一番思っていることなのだけど、それでも止まる気がしないので書かせてほしい。

舞台「泥棒役者」を観て心惹かれた理由は、個性豊かなキャラクターたちだけではなく、舞台に組まれたセットや照明の魅力にもあった。今回、客席から見えた小道具について書き残しておきたい。

 

まずはセットについて。

その中に自分が居るわけではないのだけど、セットの空間の居心地の良さは観ていても伝わってくる。1階がブルーの壁紙になっていて、2階はグリーンの壁紙。柄が壁一面にあるのに、視点が迷子にならずに目がちかちかしない。リビング中央に置かれた、落ち着いたグリーンのソファーも可愛くて、座り心地も良さそうだった。

1階には玄関を除いて扉がそれぞれ4つ。トイレ、隠し扉のように壁と同色になっている書斎への入り口、勝手口に続く扉、そして泥棒ののりおとコウジが隠れているロッカーという並びになっている。

 

それぞれの扉の向こうを覗き見ることができた瞬間があって、徹底されたセット作りにも感動した。まず玄関の向こうは、草木生い茂るカーブ型の道になっていて、これは劇場の作りの理由でそうなっているところもあるのだろうけど、大胆にも思えるバックヤードごとセットとして見せる方法はすごいと思った。

玄関の磨りガラス越しに見える葉っぱが実際に扉の向こうにはあって、ぐるーっと壁面を覆う草が広いお屋敷に迷い込むプロローグのような役割りを果たしていた。壁の上部にあるブレーカーか何かの機材のようなものもしっかりと草でカモフラージュされていて、美術さんの努力が見えた。

 

トイレは確か、開けてすぐの所に小さめの額縁で絵が飾られていたような気がする。

隠し扉のような書斎の扉の向こうはピンクの壁紙になっていて、バクの絵ではないもののあの色合いを彷彿とさせるカラーだった。奥には、赤くてふかふかした楕円形の背もたれの1人掛けの椅子が置いてあった。

勝手口に続いているらしいとコウジたちが話していた扉の向こうは、ちゃんとカーブがついた廊下になっていて、向こうに空間が続いている雰囲気があった。横向きに長方形の窓があって、そのガラス越しにも草木が生い茂っている様子が見える。差し込む明かりが外からの明かりそのもので、部屋に差すのとも違う、廊下のあの空気感が表現されていた。

ロッカーの向こうは基本的に、のりおとコウジが隠れているのでじっと見るチャンスはなかったけど、日用品や掃除道具などが置かれていたと思う。ここは記憶が定かではないけれど。そんなふうに、一瞬しか見えないかもしれなくても、扉の向こうにもちゃんと景色が作り込まれているところがすごいと思った。

 

1階ソファーの前には低めの茶色い木のテーブルがあって、その下のちょっとした台には新聞紙や雑誌が置かれていた。

そんなところにもマッシュの生活感を感じて、絵本の中のような景色だけどリアルが漂うのは、そういう“質感”の細やかなこだわりがあるからだと思った。

白地に小花柄のメルヘンなエプロンは、開場した時から右側の椅子の上に掛けてあった。

 

部屋の中央から伸びる階段に続く2階は、廊下に続いていて、廊下の壁紙は茶色。

その扉からマッシュの仕事場へと入ることができる。

左の壁一帯に大きくある本棚は、初め見ていて本物?と思うくらいに精巧に出来た壁紙の本棚。一冊一冊、分厚い本が並んでいた。マッシュの仕事机の横に椅子があって、そこにはじめが座って作業を見ていた。マッシュの仕事机はなんてことなくそこにあるように見えて、奥の配置から手前に出てきたりしていて、ラストシーンなどでは手前に配置されてマッシュの存在感がより大きく、印象的に目に映った。

 

 

照明も「泥棒役者」の空気をつくるのに大切な役割りを担っていた。

映画でも感じたのと同様に、「泥棒役者」は明かりが温かい。

それは舞台でも同じで、劇場のライトを使いつつ、そこから照らされていることを意識しないような自然さで室内の明かりをつくりだしていた。部屋の壁にはいくつかのライトがあって、その明かりの灯りかたが室内のそのまま。このライトの役割りが大きいからこそ、終盤でしげおによって消されるライトと、しげおたちが居なくなってはじめが再び点けたライトの緊張と安堵が伝わってくるのだと思う。

劇場のライトは何となく、明るくペカーッと照らすイメージを持っていて、こんな光の作りかたもあるのかと感動した。ステージのスケールで、あの明かりを作りだすのはすごい。照明さん、いい仕事をありがとうございます…!と思った。

劇中劇の時と、カーテンコールの時にある赤いライトとうごめくスポットライトの演出がとても好きだったから、あの丸いライトを動かしていた照明さんにも、ありがとういい仕事です!と拍手を送りたかった。

 

近くに座って気づいたことは他にもあって、高梨仁のYouTube動画を再生する時の音が音響さんではなくiPadから実際に鳴っていたことも驚きだった。

一緒に見ていた友達が気づいたのだけど、のりおがはじめを殴るシーンはしげお役の中川晴樹さんが蹴らない方の足でドスドス床を蹴って音を出していたらしく、音を付けているわけではないんだというのもびっくりだった。

 

舞台に立っているのは出演者の人たちで、照明さんや音響さん、美術さん、まだまだいるスタッフさんたちの姿を直接目にする機会はあまりないかもしれないけど、今目の前に広がっている空間を作るため、様々な専門職の人たちの力が加わっていると思うと、カーテンコールでより一層の拍手を送りたくなる。

観ている間はそれもひとつにひっくるめて楽しんでいるけれど、ちゃんと届いていることを伝えられたらという気持ちで、カーテンコールの時間を噛みしめながら拍手を送った。