初めて結婚式に参列することになった。
誰かの結婚式に行ったのは3歳の時以来で、大人としてお呼ばれするのは初めてのこと。
ドレスも持ってないし、靴も、バッグも持ってない。
マナーはしっかりしなければと調べたけれど、どんなパーティードレスにしようか、どんな色が似合うのか。ヒールのある靴ってどれを選んだらいいのか。わからないことばかりで、だけどそのわからなさが何だか楽しかった。
靴を選ぶにもバッグを探すにも、まずはパーティードレスを何色にするのか決めたい。いつも買い物に行く度、何となく気になっていたパーティードレスのお店に行ってみることにした。
その前に洋服屋さんのワンピースを見たりもしたけれど、これを着て結婚式に行くというイメージが湧かなくて、やっぱり一度は専門のお店で見てみようと思った。これまで同窓会に行く機会もなかったから、しゃんとしたおしゃれ着は初心者。
エスカレーターを降りて横目に映ったショーウィンドウの、ワインレッドのワンピースが目についた。
これが可愛いと第一印象で思った。見るだけ見るだけと心で唱えながらお店に足を踏み入れると、スタッフさんが対応してくれた。
どんなドレスがあるのか一通り見てみて、気になったのは水色のチュール素材のワンピースと、最初に見たワインレッドのワンピース。試着までする気はなかったけど、サイズがどうなのかくらいは知っておきたいと、その2着を着てみることにした。
どのドレスもワンサイズで、そんな怖いことがあるかと試着にドキドキした。初めて経験するコルセット。体型を美しく見せるための下着とはいえ、フッッと息を止めて、いくつもの小さなフックが並んでいるコルセットを背中で留めて、それから着るドレス。中世ヨーロッパの舞踏会かと思った。本場の舞踏会はこれに大きなワイヤーのパニエを腰回りに付けているのだから、美しく見せるのは楽じゃない。
おすすめされているだけで着けなくてはいけないものではないけれど、試着して鏡で見て、考えは変わった。全く全体のシルエットが変わる。特にウエストラインは、こんなポテンシャルが自分にもあったのか…!と感動するほど、すっきりと見える。
ただ、苦しさも半端ではなかったから、あれで食事ができるのかどうかはわからない。
ドレスの試着。まず着たのは、水色のワンピース。
チュールの袖が肩下まであって、スカートの丈も長めのひざ下くらい。店内を見ていてぱっと手にとるドレスはどれも水色で、グレーみがかった水色なんてたまらなかった。ふわりとした印象で好きな雰囲気。だけど多分、水色を選びたいのは自分の結婚式での憧れのような気がして、ここでそれを叶えてしまうのもなぁと思った。
イメージ通りという感じもあって、自分の殻から抜け出さないままというのも気になった。せっかく普段着ないものを着る機会なのだから、今までの自分では選ばないものにしたい。
次に着たのは、ワインレッドのワンピース。
背中がリボンで編み編みになっていて、ここでサイズ調節ができる。自分で着た後に、スタッフさんが後ろのリボンをキュッと絞ってくれた。すると見栄えが一気に変わって、こんなふうに自分でもワンピースを着られるんだ…とびっくりだった。
上がシンプルにワインレッド1色で、 スカート部分が大きめだけれど水彩のように淡さのある花柄になっている。ピンクや赤に馴染むように水色が入っているところも惹かれたポイントだった。
ここまで可愛さに振りきった服を着ること自体が初めてで、見たことのない自分を見られたことが思うよりずっと嬉しかった。そのワンピースに合わせて置いてもらったゴールドのピンヒールに足を通して、ストラップを留めてもらって、ネックレス、イヤリング、ブレスレットを一通り着けた。
生まれたての子鹿かというくらい、立つのもやっとなヒールで立って、鏡を見た時。
自分の中でなにか弾けた気がした。
ずっと憧れだった、映画みたいな瞬間を今体験していると思った。見たことのない自分。「プラダを着た悪魔」に幾度となく憧れた、着る服で自分が変わる瞬間を見たような。
いつか一度、ちゃんと可愛い格好をしてみたかった。それが叶っていた。
品番と値段を書き出してもらって、この日はひとまず試着で終えることにした。
お値段はかなり頑張らないといけない。一度帰宅したけれど、ほかを見てみようと思っても忘れられないあのワンピース。
いつもの自分通りなのは水色のワンピースだけど、あのワインレッドのワンピースを着た時の感覚が離れない。
服に対してこんなに恋い焦がれたことはなかった。劇場に舞台を観に行く時、クラシックコンサートに行く時、結婚式のほかにも着られるのかもしれないといろいろ理由を考えて、ワインレッドのワンピースを選ぶことに決めた。
一式を同じお店で揃えようとすると予算オーバーになるため、イヤリングやネックレスはほかで探すことにした。あとは靴とバッグ探しが待っている。
学生の頃は行事に参加することが全く好きではなかったけど、今はこうして準備をしながら参加を楽しみにできるようになって、友達の結婚式に参列することができる。
大切な友達の一日を見届けるため、その日までの準備も楽しんでいきたい。