ドラマ「海猿」前半 ー 船を好きになって、海を知りたくなった

 

最初に買ってもらったDVD BOXは「海猿 UMIZARU EVOLUTION」だった。

それも、並々ならぬ熱意とプレゼンテーションで買ってもらったもの。

ドラマ放送後、発売を知ったDVD BOX。どうしても。どーしても欲しくて。

ドラマのDVDって2万円もするの!?プレゼント最難易度と思っていたゲーム機本体より高いじゃん…と慄きながら、誕生日もクリスマスもお年玉も一緒でいいから買ってください!大切にするから!とお願いをした。

 

“SENZAKI”と書かれた、オレンジのウェットスーツのデザイン。

箱に傷一つ付けてなるものかと思った気持ちは変わらずに今も宝物で、間違いのない買い物だった。

 

※ここからの海猿関連の文章の中で、「仙崎大輔」の表記が「仙崎」「大輔」「大輔くん」と場面によって書き方が変化します。すべて同一人物の名前です。

 

 

海猿」は、作者:佐藤秀峰さん。原案・取材:小森陽一さんによる漫画。

フジテレビ制作版の実写化では、原作と異なる点がある。

 

訓練性を卒業した海猿たちは、その後どこへ行って、どんな仕事をしているのか。

映画からドラマへと移動した「海猿」の舞台は、広島の呉から、横浜へと移る。

横浜は“第三管区”なんだと覚えて、横浜・桜木町からみなとみらいが、この時から私にはすっかり特別な場所になった。

色褪せることなく、それは今も。

思い返せば、大切なアクセサリーとしてアクアマリンのネックレスを買うと決めた時も、なんとなくみなとみらいが良いとお店を選んだけど、その理由もここにあったのかもしれない。

赤レンガ倉庫のそばに海保の船が泊まっているのを見る度、あっ海保だと、一人で内心うれしくなる。

黒に青の船体はすぐに目に止まって、一等星のような白のマークが印象的。船が港にいると、いまは海が安全で、出動の必要がないのかなと安心した。

 

ドラマの放送は2005年7月5日〜9月13日。毎週火曜日、21時の枠だった。

 

第1話

海から見上げる空の青は、ドラマになっても変わらずで嬉しかった。

美しい魚の泳ぐ海もあれば、ヘドロでいっぱいの視界が悪い海もある。

会社員だった仙崎大輔が潜水士になるまでの心の動きが、仙崎の声によって語られる第1話のはじまり。ドラマ化されて、1作目が映画であることを知らないまま見る層にも伝わるようにする工夫が随所に感じられて、その構成にも感動した。

仙崎大輔のこれからを見ていけるのは楽しみだったけど、そうか配属先が決まってこれまでの仲間とは一緒にいられないのかと寂しくなって、1作目のことは触れずに進んで行くのだろうかと思っていた。

でも、ちゃんと訓練生の頃の様子が映された嬉しさ。エリカとみんなまで再集合するのを第1話で見られると思わなかった。

 

晴々しくはない仙崎の表情。

「潜水士になって1年、俺はまだ、遭難現場の最前線にすら、立っていない」 

その一言で、あれほどの訓練を積んでそして1年が経っても彼の思い描く活躍には程遠く。停滞している自分への歯痒さが伝わってきた。

ドラマ化までの時間も含めて視聴者として体感しているからこそ、きっと成長していると理想を思い描いていただけに、現実を突きつけられた気持ちになった。

 

停泊している船「ながれ」が仙崎の背中越しに見えた時、思っていたより小さめで年季の入った船だなと感じたのが第一印象だった。

ドラマを通して見ていくうち、この船が思い入れのある場所になっていく。

佐藤隆太さんが演じる吉岡がデッキブラシを手に、伊藤英明さんが演じる仙崎大輔を迎え入れて「ながれ」を案内する。

吉岡が23歳で、仙崎が26歳。大人だと思っていた2人を、こんなに若かったのかと思うようになった。追いかけて、追いついたんだと思った。

 

ながれの船員が紹介されていく。とてつもなく怖かったあの教官から、船長はどんな人になるのかと思っていて、笑顔は見せてくれる人だけど凛々しい緊張感のある船長だと感じた。

下川隊長を見ると、ほっとする。

時任三郎さんはもう、下川隊長とイコールだった。ようやく最近「朝顔」のじいじだと思ったりもするようになった。

そして、仲村トオルさんの演じる池澤さん。特救隊(特殊救難隊)から一時的にながれに配属されている。仙崎とは到底分かり合えそうにない硬派な空気に圧倒された。

 

このドラマで欠かせない舞台が船のほかにもある。

環菜と大輔にとって、潜水士たちにとっても、大切な場所になった“OCEAN'S”

こんなお店があったら行きたい。上の階に住みたい。

すーぐ調子に乗っちゃう仙崎。ドン引きな環菜。の図も相変わらずで、安心した。

 

 

海猿」で知るきっかけを持つまで、海の上でどんなことが起きているか、想像したこともなかった。

何の気なしに過ごしている時間に、夜だからと眠っている真っ暗な時間に海に出ている人がいること。海のルールや、事故、事件のことも。

 

 

第2話

天地がひっくり返った船の中の怖さ。

その中で救助活動ができるのは、学ぶ知識と、普段から船で生活していて船内の基本的な構造が体に染みついているからだろうと思った。

要救助者を前に、安心をさせなかった池澤さん。それが分からなかった仙崎。

仙崎が声をかけていてもいなくても、船長は移動してしまったかもしれなくて、常に置かれる窮地でどんな判断をするか正解を導き出すことの難しい仕事なんだと感じた。

そして、恋人でも、家族でも、言えないことがある仕事。

どんな場所にいて、どんな任務にあたっているか、帰りを待つほかにない。

 

水の中での救助において、パニックになっている人をどう助けるかは慎重を要するのだと知った。

しがみつかれることの危険性は、海に限らずプールでも、溺れている人を助ける時の注意点なんだと学んだ。

水の怖さも痛いほどこの作品で理解する。

川でも家のお風呂でも、足首の高さほどの水で人は溺れると聞いた時はそんなはず…と思ったけど、大袈裟なことはない。そうなら、深さも波の力もある海を前に、人間がどれほど無力であるかわかって、恐ろしかった。

 

 

第3話

下川隊長と、別れた奥さん、娘の関係性は、キリキリと胸が痛くなるほどにリアルで、見ていて思いを重ねずにいられないシーンの連続だった。

下川隊長なら家庭にも真摯に向き合って上手くいっていそうなのにと思うギャップもあって、そう簡単ではない人間関係も映すところにも引き込まれた。

 

池澤さんと仙崎の練習シーンでは、海保の訓練用のプールにはこんなに深いプールがあるのかと思った。

海でばかり練習するわけにもいかないのだから、そうかと理解するけど、水族館のイルカのプールでも果てしない深さに恐くなって気が遠くなる私には、想像を絶する深さだった。

訓練生の頃のトラウマのある仙崎に、酷な訓練をさせた池澤さんにも心臓が跳ね上がる。

無茶だって!と、ドラマなのは分かっていながら画面に向かわずにはいられなかった。

 

 

“OCEAN'S”のカウンター席で食事をしている環菜が好きで、唯一深く息のつけるシーンだった。

大輔くんと2人で食事をしているシーンもこの先出てきて、木のスプーンで食べているロコモコっぽいワンプレートの何かが好きだった。

海での様子や空気を知ることができない環菜にとって、海と繋がる場所でもあって、海猿のわいわいの中に環菜がいる様子が良かった。

 

「仙崎さんを見舞いに行ってあげてください」とカウンターに置いてあるマイクに顔を寄せて呟く吉岡がすごく好きで、ここに吉岡からの仙崎への思いが凝縮されている。

同時に、環菜と大輔と吉岡の関係性もここから積み重なっていると感じた。

その後の、吉岡に注文と全く違うトロピカルなジュースが運ばれてきて、「わーなにそのビール!ってうおい!」がいい。

愛さずにいられないキャラクターがすでに確立されている。

 

病院で2人が大事な話をすると、ストローとかゼリーとか何かしら吸っている人が必ず映り込んで、戸惑わせるお決まりパターンが海猿にはある。聞かされる方の気持ち…!

 

普段はわりと楽観的な考え方の大輔だけど、それだけではないことも描かれる。

大輔が、池澤さんの奥さん、直子さんに会うことで、環菜にもこの先同じ思いをさせるかもしれないと実感したのかもしれない。

それでも大輔が怯まなかったのは、すでに心が決まっていたから。

 

 

海上保安官は生きて帰るのが鉄則だ」 

 

言葉の通りに受け取るのと同時に、そう約束しなくてはならないほどの現場に飛び込んでいるのだと突きつけられて、ショックを受けた。

 

環菜は25歳。

今になればわかる。その歳での恋なら、あんなに動揺して迷っても何も不思議じゃないと。

放送当時は、会社の上司になんで心揺れてる感じなの…!なんで大輔くんにそんなこと言ってしまうのと思っていたけど、「普通の恋がしたかったの」と言わずにいられなかった気持ちがようやくわかった。

 

休日、パパでいる時間は腕時計を外す下川隊長。娘の唯と遊園地に行く。

月に1度しかない時間を、目の前にいる娘を愛しむように見守って、一緒に遊ぶ2人が切なかった。

前もって決めずに、会ってからどこに行く?と聞くやり取りがとてもリアルだった。

無邪気に遊園地!と言える唯ちゃんが当時は羨ましくて、私も真似してみようと思った。きっと連れて行ってもらえないと思いながらディズニーシーに行きたいと言ったら、「行こうか」「いいの?!」と叶った時のことを思い出した。

ディズニーシーが、大好きで。この頃から船が好きだった。S.Sコロンビア号のあるこの場所が、夢の空間だった。

決まって乗っていた好きなアトラクションは、シンドバッド。“コンパス・オブ・ユアハート”の歌詞に心打たれていた。考えてみると、メッセージ性には通じるものがある。

 

 

それぞれの休日があると、丁寧に映すところも好きだった。

水族館、自宅、どんな時間を過ごしていても、いつ出動命令が出るか分からない。

「勉強してみようかなと思って」 と海上保安官についての本を見せる環菜に、「いいのこんなの読まなくて」と大輔くんが言う切なさ。

「友達なんだからね」と念押しする環菜に、ちょっとむっとして、本当に?と言いたげに顔をふっと近づける大輔。

目が合う二人の空気感が、友達なんかじゃないことを物語っていた。

 

「あの夏は、環菜に出会った大事な夏でもあるけど、俺にとっては潜水士になった夏でもあるんだ」

前線に立つ一人一人に、生活と、家族とがあることを描いた第3話。

 

環菜の住んでいる部屋が、とても魅力的で。

下がOCEAN'Sでマスターがいるなんて最高。

環菜はノースリーブのファッションが多くて、ブルーやパープルを着ている環菜がマーメイドテイストとして完璧だと思った。

数少ない陸に上がっている時間、2人が一緒にいること。環菜にベタ惚れな大輔。そんな二人を見ているのが幸せだった。

 

 

第4話

ダイバーズウォッチが印象的な第4話。

ラストの素晴らしさと、環菜がそれを渡したことの意味の深さを思うと言葉に詰まる。

 

父親の着けていた腕時計を探して、何度も海に潜る息子のまさや。

いつか事故が起こると、見ていてとても怖かった。

時計が見つかるわけじゃない。それでも気持ちに整理をつけて、進む姿が描かれることに意味がある。

自分の決心を、幻ではなくて確かなものにするため、仙崎にそのお願いをするまさやの気持ちがわかる気がした。

 

大輔くんが腕時計を渡してしまったことは、見ている側として寂しいものがあった。きっと訓練生の頃から使っていた手放したくないはずの腕時計。

それを損得も先も考えることなく手放した。そんな大輔に、大好きな恋人からのプレゼント。腕時計の話なんてしていないし、何が欲しいとも言っていないのに、これが。それは嬉しいに決まってる。

時間を見るのに1日で何度も目を向けて、海の中でも残圧と共に要確認するダイバーズウォッチ。

海保のことを知ってみようと本を読んでいた環菜のことだから、そこまで意味を込めたつもりはなかったとしても、潜水士にとって大切なものであることはわかっていたはず。

 

一瞬、戸惑ったように黙った大輔の表情に、すべてが表れていた。

「もらった、時計もらっちゃった」

泣きそうになるけどそれ見せずに、ありがとう、めっちゃうれしいと笑顔で言う大輔くんが好きで。

お調子者だけど、ナイーブなところもあることを丁寧に描いているドラマ「海猿」は、大輔くんの魅力を深いものにしていた。

実はこんなことがあってさ、とは言わずに環菜がくれたことをシンプルに喜ぶ大輔くんのはしゃぎっぷりがたまらなく愛しかった。

 

画角いっぱいにはしゃいで、エキストラさんにまで絡んでいくから、多分それは想定外で即興演技で対応する様子が映っているのもおもしろい。

すいません…と向かいの席の女性に会釈する環菜が可愛かった。