尻尾も無ければ足跡も残さない久住。
MIU404 第11話〈 〉
追う志摩と伊吹は、自分自身を見失うことなく、久住の姿を捕らえることが出来るのか。
ついにきた最終回。
編成の都合や、演者さんスタッフさんのスケジュールから、話数が減る可能性もあった中で、予定と変わるところがあったとしても、可能な限りを尽くして全11話。撮影して、制作して、放送してくれたことに全力のありがとうを伝えたい。
車に乗っているシーンがほとんどのドラマで、公道での撮影許可や機材の用意も大変だったはずだけど、車窓の合成シーンが無かった。
徹底して、車内のシーンは走行中も停車中も実際に公道での撮影を貫いた、スタッフさんの頑張りに毎回感動した。
志摩と伊吹が結託して、互いに引っ張り合いながら加速していくのかと思っていたら、メロンパン号での空気はまさかの不穏な流れ。
かつての相棒、香坂のこと以外で、志摩が過去の決断を後悔しているのが珍しく感じられた。
しかし思い返すと、桔梗さんの家に仕掛けられた盗聴器の時など、案外、志摩は一度決めたことを振り返って考えては悔やむところがあるのかもしれない。
伊吹にとって、キツい志摩の言葉。
お前があの時!と喰ってかかってくれたら喧嘩できるのに、志摩は「お前は関係ない」「他人に判断を任せた俺の問題。俺のミスだ」と言う。
最終回なのに、こんな決定的な亀裂が入る!?とヒヤヒヤする。
志摩は志摩で、警察でいるのが不便そうな素振りを見せる。伊吹は伊吹で、「絶対に許さない」とガマさんの言葉を暗示のように繰り返す。
どちらも、警察官としての自分に執着が全く無くなったように見えて、それが怖かった。
第1話で犯人を捕まえ、拳銃を手に持った伊吹に肝が冷えた、あの時。
第4話で、犯人に突きつけられた拳銃を握り締めた志摩に、息がつけなかった、あの時。
あれ以降、2人は微かな危うさを行ったり来たりしながらも、警察でいるから助けられること。間に合うことを、噛み締めて前進しているように見えた。
だから最終回にきて、始めの頃に苛まれていた不安がここまで高まってくるとは思わなかった。
ドーナツEPを積んで逃走しようとしたトラックに跳ねられ、重傷を負ってしまった陣馬さん。
本当にあのまま跳ねられてしまった…とショックが拭えない。陣馬さんには、うどん出来たぞ!と最後まであっけらかんとしていてほしかった。志摩と伊吹を、おい!ちゃんと正面から話し合え!と背中を叩いてほしかった。
けれど、実際は10日間も目を覚ましていない。
虚偽の通報によって出た弊害は、久住を取り逃しただけではない。
取るべき電話が取れなかった。対応に遅れが出て、重大な結果を引き起こした事案があった。
駆けつける必要がある場所に、駆けつけられなかった。
陣馬さんは病室。九重は機捜を外れて異動。
桔梗隊長は、機捜の部署から移ることに。
志摩と伊吹は、お互いの様子を気にかけてはいて、頭の中では心配しているのに、口をついて出るのは憎まれ口ばかり。4機捜が散り散りに。
志摩の鞄に盗聴器を取り付けたタイミングは、喧嘩を吹っ掛けた時だったけれど、一体いつそれを指示したのかと、もう一度見直した。
志摩が桔梗隊長と話をして出てきた時にはもう、糸巻さんが黒のガムテープを手に持っていた。決めて実行するの早!と驚いた。
結果、聞かなければいいことばかりを耳にする伊吹。そこから先!先を聞いて!と思っても、伊吹はもうイヤホンを外してしまっている。
2人の態度はあまのじゃくで、伊吹はどこまでも2人で事件を追求したいと思っていて、志摩は伊吹を巻き込まずに1人になろうとする。
伊吹のような警察官がいることの可能性を誰より信じているのが志摩で、だから警察を辞めることになるかもしれない場に連れて行きたくなかったのだと思う。
桔梗さんと、羽野麦さんと、ゆたか。
3人でレストランで、ボリュームたっぷりのハンバーグを食べている姿を見て、なんだかすごく安心した。もりもり食べるお肉。美味しそうで、元気が出そう。
「まだしばらくは居候させてもらわないとダメだけど」と申し訳なさそうに言った羽野麦さんに、
「何言ってんの。いつまでだっていていいよ」
「うちから嫁に行ったっていいし、行かなかったら老後は2人で暮らしたっていいじゃん」
その時その時で対応していこうよという温かさを感じた。
ずっとを強制もしないし、これからいろんな形の楽しみが待っていると、毛布で包むような優しさだった。
ガマさんに差し入れさえ受け取ってもらえなかった。その時の伊吹が、拒絶を懸命に受け止める表情をしていて苦しかった。一体何度、ここに一人で足を運んでいるのだろう。
一方、RECと手を組み、志摩の捜査方法はどんどんアウトローになっていく。
伊吹が志摩を殴った瞬間から、時計の針の音がする。
志摩と九重の場面では、九重が「俺は嫌です」と志摩が居なくなることを危惧する。
「関係無いなんて今さら言われたくないです」と志摩の胸をトンと押した行動が、印象的だった。
居ても立ってもいられず、思いの乗ったその手が動いたように見えた。感情の込もった動作に心動かされた。
船の停船場、カウンター越しについに対面した久住と伊吹。対面してしまった。
一触即発とはこの状況のことを言うんだと実感するほど、ヒリついて怖い。どちらも何をしでかすか分からない。
伊吹の目の色が変わったここでまた、時計の針の音がする。
俺は何もしとらん。みんな頭悪いんやな。飄々と久住は言う。
達観の危うさを目の当たりにするようで、つらく、足場が安定しない感覚。自分は賢いと考えはじめることが、猟奇的思考の入り口であると常に感じる。
「そんなことが目的か」と言った志摩には、
「目的なんかないよ、あほうどもがワーワーやってるのを高いところから見とるだけ」
そう言った。
目的なんかない、最も恐れていた答えだった。
目覚めた志摩に、
「なあ、俺と組まへん?」
と話しかけた久住。
志摩が拳銃を向ける。久住の右目。左目に掛かった前髪。
すっごい目をするな…と釘付けになった。怖いから目を逸らしたいのに、逸らせない。
見えている右目もそうだけど、髪で隠れながら時折見える左目に、拳銃を向けられていることへの慄きと、その中にもまだ残る余裕を感じた。
「銃声を聞けば伊吹は起きる」
確信していた志摩。
銃声をきっかけに、伊吹は目覚める。
「なあ、俺と組まへん?」
伊吹も同じく、久住に持ち掛けられる。
「クズはクズのまんまとちゃうんか?」という言葉は、伊吹の心に沈んだまま残っているコンプレックスの表れのように感じられた。
あんな気迫で、捲し立てて怒鳴りつけるお芝居をする菅田将暉さんに圧倒される。
志摩を演じる星野源さん相手に、伊吹としてそこにいる綾野剛さん相手に。
恐ろしいほどに、久住だった。
志摩は、伊吹が一線を越えて殺してしまうことを恐れた。
伊吹は、志摩が死んでしまうことを恐れた。
時計の針の音がまた聞こえる。二度目に映る月。
「何かのスイッチで進む道を間違える。その時が来るまで誰にもわからない」
「だけどさ、どうにかして止められるなら。止めたいよな。」
「最悪の事態になる前に」
志摩の声が、絶望を知った上で手放したくない光のように届いて。
第1話でも出てきた、“最悪の事態になる前に”という言葉。その意味の重さと、それを人間は出来るかもしれないんだという可能性に、思いがぐっと込み上げる。
差し入れのうどんの箱が落っこちた。
「博多うどんがいやなら、どれがよか?」九重が声をかける。
「最悪なおいしゃんと、なんで組まんといかんとかって」
やっぱり、おじちゃんじゃん!と第一印象は思っていたんだね九重…と思いつつ、積み重なっていろんなことを教わっていた九重と陣馬さんの信頼関係が明らかになって、胸がいっぱいだった。
船の中、意識を失っている伊吹と志摩に、九重からの連絡。陣馬さんが意識を取り戻したと。
急ぎすぎて打ち間違えている九ちゃんが微笑ましい。
意識が無いままの志摩と伊吹を、本当に沈めようとしていた久住。
どうやってこの状況で逃げる?!と思っていたら、近くの船を頼りにしれっと海にダイブする2人が最高だった。
それに気づいても2人に執着せず、今度は久住が国外逃亡しようとする。機転の早さと言うのか、“意思”への固執の無さが、どこまで行っても怖い。
生瀬勝久さんが演じる、“まめじ”こと、刑事部長の我孫子豆次さんに繋いだ電話。
「面目のために未来を捨てるんですか?」と言った桔梗さんの声を聞き届けて、
「未来を優先! 以上」
心にダイレクトに来た。
現在の状況にいる自分の心で聞くと、今する選択は“未来を優先”することになるんだと瞬間的に思って、第11話で最も好きな台詞がここになった。
長いものに巻かれる主義、物事は穏便に進めようとする豆次さんが言うからこその、事態の大きな変化を感じる一言。
MIU404の世界の中だけでなく、これからを生きていく自分たちへの希望のように思えて、優先できる未来があるならと、今のこの時間さえ少しだけ受け止めることができた気がした。
メロンパン号で駆けつけてくれたバタ子さん、ではなく九重。
「あと濡れたら走れないと思って伊吹さんに」
海に飛び込んでびしょ濡れなことを把握して、伊吹さんのことを考え、靴が濡れて重たくなっているはずと想像力を働かせることの出来る九重。仕事が出来る。
1機捜と所轄も出動して、久住を徹底的に追いかける。全総力をかけて逃がしてなるものかという気概。
伊吹に盗聴された自らの発言を、誤解なんだよとか訂正しようとすることは無く、「ごめん」と謝って伝えたいことは伝えた志摩。
「泣くなよ」「泣いてねえよ」のやり取りがすごく良くて、あの「泣くなよ」の間合いが絶妙だった。
「行きますよバカ2人」と言った九ちゃんも最高で、言われて笑う志摩の顔が良かった。
屋形船に見つけた、久住の姿。
並走する伊吹を見た時の、うーわあ…という久住の顔。
久住の電話帳には、“名前”すら登録されていない。金持ち、持ち物、どこにいるか。それだけ。その中から呼びつけた“知り合いたち”
屋形船から橋を使って、陸に逃げた久住を追いかけるのは志摩。あの赤いチャリで。「あーなんか来よった」と言う力の抜けた声。
メロンパン号で前から追い詰めるのは九重。船上からは船長のごとく堂々とした伊吹。
身体を張った怪我まで作り、一芝居打って証言してもらうつもりが、知り合いたちはドラッグを使っていて相手にならない。
なんやこいつら…とでも言いたげな、愕然とした表情。自分で作った人脈、世界なのに。
白いタオルで傷を押さえられた久住の顔が、驚くほど幼く見えた。
久住、五味、トラッシュ、バスラー、スレイキー…
2つ目のシェアオフィスで“五味”と呼ばれていたあたりから、どうしてそこまで、自分のことを要らない物のように名乗るのだろうと思っていた。
トラッシュと来れば、トラッシュ缶で聞くようにそれは捨てる物で、どこまでいっても彼は自分という“存在を持つこと”を望まない。
病室のベッドで志摩と伊吹に尋ねられる質問に、空虚な瞳のまま答える。
「何がいい?」
ぞくっとした。
相手の望むように、相手の共感してほしいポイントを押さえて、俺もそうやったと人の懐に忍び込んできた久住。
姿かたちは何だっていいんだと、その一言で伝わる底知れぬ恐ろしさがあった。
「ん?どれがいい?」となんの熱も持たない声で、目で話す。望みを言ってみろ、その通りになってやるからとでも言いたげな、挑発とも取れる空気。
でも。そっと両手で両目を覆って彼は言う。
「俺は…お前達の物語にはならない」
何を見てきたのか、なぜこうなったのか。
起点が無かった訳ではなくて、ちらほらと欠片が見えはするけれど、こんな悲惨な事があったからこんな人になってしまったんですなんて説明は無く、あくまでも推察できる範囲。
そうなのかもしれないし、今見えた気がしたものさえ全てひっくり返るかもしれない。
理由をそこだけに持たせようとしない描写に、緻密さを感じた。
あるはずだったオリンピック。使われないままの国立競技場。
マスクを外せない日常。
気が重たくなる現在の景色だったけど、それを同じように見ている志摩と伊吹の姿に、少し安堵した気持ちと、2人はそんな世界を知らずにいてほしいという思いが半々にあった。
強力なドラッグを吸わされた2人の体は大丈夫なのか、後遺症に悩まされることはないか、大真面目にそれが心配で心配で仕方なかったけど、現在も警察を続けている様子を信じることにする。
「湯切りするぞー!」と、松葉杖をつきながらでもやってきた陣馬さんが見られたこと、本当によかった。
MOBILE
INVESTIGATIVE
UNIT 404
頭文字を取って「MIU(ミウ)」
コールサインは404。
「機捜404 ゼロ地点から向かいます どうぞ」
MIU404 第11話〈ゼロ〉
ゼロ地点から向かうこれからが、どんな選択の連続でも、間違えるかもしれなくても。
志摩と伊吹がキャンキャン吠え合う様子を思い出せば、日々を選んでいくことも新たに進んで行くことも、ここからまた、楽しんでいける気になれた。