突きつけた矛先、許せない後悔「MIU404 第6話」

 

繰り返し、思い出す。

MIU404 第6話〈リフレイン〉

ウイスキー、ヘアクリップ。ランプの灯り。ピタゴラ装置。いろんなことがリフレインする。

 

かつて捜査一課で、志摩が組んでいた同僚。

香坂義孝

相棒だけど後輩で、大切な後輩で。ちゃんと育てていきたかったはず。でも彼は個人の判断をして、個人捜査をして、自らの手も汚した。

導けなかった。無防備な捜査に気づけなかった。やるせなく、どんなに無力さを感じたか。

 

捜査一課に入る前の志摩を知っている陣馬さん。

「昔の話じゃねぇよ、志摩にとっては今も何も終わってない」

「志摩、何があった。どうしてウイスキー飲めなくなった?」

調べるな、とは言わず。「出来るもんならやってみろよ」と伊吹が知ることを止めはしなかった。6年前を、志摩は今も抱え続けている。

 

村上虹郎さんが演じた香坂。危なっかしく、一本気で。

だけど、だから。可能性に満ちていた。志摩と出会えたことも、いい相棒になれるかもしれなかった。

正義感に飲まれた香坂は、一人思いつめ、志摩に相談することもしなかった。それでも気づいていた異変に、志摩は。

何度も繰り返す、部屋での会話。屋上で差し伸ばした手。

そうしたのにそれでも救えなかったことに悔いているのかと思いながら、ずっと見ていた。でも違ったのだと知らされた時、言葉の出ない痛みが心に走った。

 

「声を、掛けなかった」

「行かなかった」

 

“声をかけられなかった” “行けなかった”ではない言い方をすることに、どれだけ自分を責めているかが伝わる。

志摩はずっと。ずっとそれを悔やんで、思い出しては苦しんで。

相棒殺しと同僚たちに噂されながら、刑事でいつづけた。誤解だと訂正も説明もしなかったのは、誰より志摩自身が、確かにそうだと自分を睨んでいたからかもしれない。

しかし辞めなかったのは、刑事でいたかったと思いながら辞めていった香坂の存在があったからだと思う。

たった一度の失敗、では済まされない行動をした香坂。悔いても無かったことにはならず、刑事を辞めるしかなくなって、どうしてあんな事をと考えても戻らない。

ウイスキーが飲めない志摩。それが彼にとってのスイッチだから。

 

「今まで何を習ってきた!」

声を荒げる志摩の顔は、怒りの声と裏腹に哀しげで。目に焼きついて離れない。

警察学校から、捜査一課に配属されるまでの年月。香坂自身の努力。香坂と関わってきた人たち。相棒になってから、志摩が教えてきたこと。

捜査一課にいるからには、今後も難題の多い事件を扱うことになる。だからこそ、勝手な行動は命取りだと、正義に飲まれていては危険だとわかってほしかったはず。

 

「悔いても悔いても、時間は戻らない」

もう二度と、相棒は組みたくなかったかもしれない。

特に、危なっかしく、突拍子もない伊吹のようなタイプとは。

そんな志摩が、伊吹と組むことになった。

 

伊吹「その一個一個、一個、一個がスイッチで。なんだか、人生じゃん」「一個一個、大事にしてえの。諦めたくねえの」

志摩「何度も何度も何度もあったスイッチを見ないフリして逃してしまった」

 

終盤、49:58の志摩の表情。

伊吹のあっけらかんとした言葉に、面食らって、呆れたような、肩の力が抜けてほっとしているような。うれしさがほんの少しだけ口角に見える表情が、とても繊細だった。

ピタゴラ装置の話を志摩がした時、「誰と出会うか、出会わないか。」と言った。あの時は、危険な道に引き込む人と出会わないことを意味しているのかと思っていたけど、「お前の相棒が伊吹みたいなやつだったら…」と口にした志摩は、自分が香坂と出会ったことが、起こるべきでなかった事として考えているのかもしれないと思うと悲しかった。

 

 

第6話は、伊吹と九重のコンビや、桔梗さんと陣馬さんのコンビも見ることができた。

陣馬さんの可愛さが炸裂していて、非常階段をせっかく登りきったのにすぐ降りることになり、「なんでだー!」と駄々をこねる陣馬さんがよかった。

九重「怖い女ですね」伊吹「どっちがだよ」のさり気ない会話も印象的。

お酒は飲めない人だったのに、志摩の好きなお酒だと知っていてウイスキー『グレングリアン』を用意した香坂。忘れられないシーンばかり。

 

「間違いも失敗も言えるようになれ」

「もし僕が香坂さんだったら…」と呟く九重に、陣馬さんが真剣に言った。

香坂を見ていると、なぜそこで言わないのかと思ってしまうけど、“自分がそこに置かれた時”を想像すると、これは課題だと心にずしりと残る。

完璧を貫こうとする期間が長くなればなるほど、荒を見せられなくなる。間違えました!失敗しました!それを言ったとしても、大丈夫な自分になることが自分を救うかもしれない。

 

志摩が自分を責めて向け続けた矛先を、伊吹の行動がずらしてくれたことに安堵した。

第4話で志摩が自分に突きつけさせた銃口を、蹴り飛ばした伊吹の行動は、あの場だけではなく、ある意味で今回も実行された。

それでもまた思い出しては後悔するかもしれないけど、二人が一緒にいる限り、志摩のわずかな変化を伊吹は見逃さない。そして多分放っておかない。

香坂のことを思い「忘れない」と消え入る声で言った志摩。その声と、背中。

向き合うことの痛みも悲しみも感じた。