一億円を賭けた彼女の大勝負「MIU404 第4話」

 

「賭けてみます。今まで勝ったことないけど」

MIU404  第4話〈ミリオンダラー・ガール〉

賭けはもうこりごりだったはずの彼女、青池透子が最後に賭けたもの。

 

初動捜査は終了となると、集めた捜査内容は有無を言わさず渡さないといけない。それが機動捜査隊の役割。

お疲れさまです、ここからは…と引き継ぐシーンを見るたびに、あと一歩踏み込めない取り上げられるような歯痒さを見ていて感じる。

えっ…と戸惑い後ろ髪を引かれる素振りの九重の気持ちが分かる気がして、さっぱりと挨拶をして立ち去れる陣馬さんに、長年の経験と割り切る心の置き方が見える。

 

事件の捜査協力をした羽野麦に危険が及んで、かくまいながら一緒に暮らしている隊長、桔梗ゆづる。

日本には、証言者への明確な保護プログラムが無い…と話す志摩の言葉に、そこが本当に重要な境界線になるのに…と心が鉛のように重くなった。

例えば今いる場所が“ここ”だとして、助けてくれるはずだと信じたい警察の立ち位置が“そこ”だとするなら、意を決して“そこ”まで走り出した時。敵に背を向けて走る危険を冒している対象者を守れるか。“そこ”にたどり着いた時。逆恨みをされたり狙われやすくなる対象者を保護し続けられるか。

その問題は常に付き纏うものだと思う。海外の警察のシステムは知らずにいたけど、日本にはそのプログラムがしっかりと構築されていないと知ると、それは証言も告発も難しいはずだと思ってしまう。

恐怖のなか助けを求めた人が、絶対的に守られる制度が確実にあってほしい。

 

「土壇場でわかるよなぁそいつがどんなやつか」

伊吹がはじめに言った時、それがどういう意図の言葉か測りきれなかった。その言葉は、見極める側としての視点なのか、本質を見抜かれた側としての視点なのか。

オオカミもびっくりなキックを繰り出すうさぎの話は印象的で、物静かだから、小さいから、弱そうだからと攻撃を続けたらどうなるかがわかりやすい。

 

 

一億円を持って逃げているのは青池透子であると、初めのシーンから分かっている。

撃たれているのに走り続ける気力はどこからきているのか。

真っ当な道をと本人が望んで、働いて、暮らしていたのに、まだ逃げ切れていなかったと気づいた時の絶望感はどれほどだっただろう。
気絶してもおかしくない痛みの中、バスに乗る。その行動でもう、ただ事ではない覚悟を持って走り切ろうとしているのだと伝わる。

 

彼女が最後に見たのは絶望ではなく、希望だった?

だった。と言い切る勇気が私にはまだない。バスに乗りながら窓の向こうに見えた配達トラック。追い越して、高速道路を登っていくトラックを青池透子は見ていた。そこでぐっと大きく聞こえる「たった一瞬の このきらめきを」という歌詞。

米津玄師さんの「感電」のグルーヴ感と共に、落ちているのか登っているのか、怒っているのか諦めているのかわからないメロディーが折り重なる。喜びはあったはずだと思いたい。

運送会社で嬉しくてたまらない様子で話したことは、彼女の記憶にバスに乗っている間もあったと思うと、悲しみでは終わらなかったはずと。

でも、最高潮のときめきを抱いた瞬間に最も合う歌詞が、他のどんなパートでもなく「たった一瞬の このきらめきを」だったことが、すべてを賭けても“一瞬の” “きらめき”で消えてしまうものであることに悲しさを感じてしまう。

何かもっと方法が…そう思いたくなるのは、結局自分は自分で、冷静さの向こうからしか見つめられないからだろうか。

 

美村里江さんの演じる青池透子。

青池透子という名前の通りに、透明な儚さがありながら、確固たる意志のもと貫く強さ。

ドラマの撮影を止めなくてはいけなくなったのが、第4話の途中だったと公式Twitterに書かれていた。その間、青池透子という人をそっと保ったままで、再開した撮影でようやく完結した青池透子としての歩み。

無茶なことをする逃亡犯、ではなく、なぜそうするのかと問い掛けたくなる佇まい。伊吹が話しをしようと向き合いたくなった気持ちがわかる。


ラストシーンになっても、‪うさちゃんが海外に届いて、喜ぶ子供たちを描くことは無かった。

過剰な演出にならない意味でもそれがよかったのかもしれない。ただ、私の根っこがネガティブなのか、酷だ…と感じたのも事実で。大事なのはあの瞬間、希望に満ちていた彼女の時間なんだと思うと、ルビーがあの先どうなっていても今それは重要ではないのかもなと考えたりした。

 


青池透子の乗ったバスを一番に見つけ、後についた志摩と伊吹の乗る404。

拳銃を所持した人物が乗っていることを事前に知らされて、防弾チョッキに心構えも間に合ったと思いきや。迅速に、つつがなく。とはいかない。

想定外の3人目に銃口を向けられた志摩。微笑む前の、コンマ何秒の顔にぞっとした。

余裕の笑みよりも、それが恐かった。

 

伊吹が怒ったのは、それでもいいと開き直った諦めを志摩が見せたことにだろうか?

どういう意味で言ったんだろうと思った疑問の答えはラストにしっかりあった。

「お前の本性が死にたい奴だったとはな」

「あんな真似、二度とすんじゃねえぞ」

伊吹が志摩の胸ぐらを掴んで言った。

向けられた銃口を握った志摩が、ただのハッタリではなく、どうとでもなれと思っていたことを伊吹は鋭い嗅覚で気づいていたはず。

それを許さないと怒る存在が、志摩にとってそばにあることの重要さ。志摩と伊吹は互いのストッパーで、両端に強く引き合って振り切らないように作用している。

これからその関係性がどう変わっていくかはわからないけれど、伊吹の狂気を見つけた志摩と、志摩の狂気を見つけた伊吹。

どうか狂気の手を取らず、互いを引き合っているバランスのままでいてと願わずにいられない。