娯楽だから変えられる世界。ハンブレッダーズ「ユースレスマシン」

 

時代遅れのガラクタで静寂をシャットアウト

たった一枚のディスクで真夜中をフライト

小切手もノウハウも必要がない魔法

世界を変える娯楽を 

 

ハンブレッダーズユースレスマシン

作詞:ムツムロ アキラさん 作曲:ハンブレッダーズ

 

メンバーは、ボーカル・ギター:ムツムロ アキラさん、ベース・Cho:でらしさん、ドラム:木島さん

大阪在住のロックバンド。

関西で放送されている、関テレのドラマ「エ・キ・ス・ト・ラ!!!」の主題歌になっている。

“エキストラ”がテーマになるドラマが放送開始と聞いて興味津々でいたら、ティーバーで関西地区でなくても見られることを知って、毎週木曜日を楽しみにするようになった。

見始めて何週目かになるころ、エンディングに流れる曲も興味深いことに気づき始めて、最後の最後まで含めて「エ・キ・ス・ト・ラ!!!」で描かれる作品づくりの現場の熱気や覇気が表現されていると感じた。

そして今、曲を聴いているとこんなに歯痒く苦しくなるのは、考え一つでは太刀打ち出来ない状況の閉塞感に、心の中で思うものが重なって、やるせないからなのだと思う。

 

暗闇の中、自分がどこにいるのかもわからなくなるような静寂を切り裂いてくれるのは音楽とラジオだった。

真夜中であろうとどんな場所に居ようと世界を越えていろんな景色を見ることのできるドラマや映画。

小切手もノウハウも必要がない魔法

世界を変える娯楽を 

舞台はパスポートのいらない世界旅行。ライブは考えるよりも先に心が動く、ただ一つだけあって二つとないもの。

崩れかかっていた私の世界を、形を取り戻させてこれからに期待する気持ちを呼び戻させたのは娯楽と呼ばれるものそのものだった。

 

早いリズムで叩かれるドラムに、駆け抜けていくエレキギター

早口に詰め込まれた歌詞がボーカルのパキッと鋭利な歌声にのって清々しい。

ベイビー それじゃお元気で

君みたいにテキパキできないし

喜怒哀楽より無表情が得意で一体何が悪い?

やさぐれた心でいることさえ申し訳なさを覚える時でも、これぐらいの開き直りで強く自分を構えていけるのだとしたら、それもありかもしれないと思えたこの歌詞が好きだ。

 

 

子供ながらに涙した

ジュブナイルアニメーション

明け方まで考察した SF超大作

この先の人生に必要がないもの

心の奥がザラつくような一瞬を

 

人それぞれに同じものではないから楽しい、記憶に残っている作品との出会い。

あの時ひとりで見ていたものを、今は懐かしがりながら、見てたよね!と共有し合えることが嬉しい。

あえてそういう表現を使っていると感じる、“この先の人生に必要がないもの”という歌詞からさえ愛情が滲み出ていて、“心の奥がザラつくような一瞬を”という言葉に、爽やかさだけではない後味すら楽しむことの面白さを思い出す。

 

聴いていて特に好きになった歌詞が、

頼りのない便りをしたためよう

したたる涙を言動力に

たどたどしさに宿る正しさに

僕はいつでも恋をする

音で聴いていると同じで気づかないようなところを、原動力ではなく“言動力”と書いているのが素敵で。

堂々と語ることが正しさと言わずに“たどたどしさに宿る正しさに”と言い表す歌詞には、本当に頼りすることのできる相手は表面で判断できるものではないという真実を見抜いていると感じる。

荒っぽいばかりでもなく、でも好きなものに胸が熱くなるエネルギーに満ちていて、だけど消しきれない脆さ。手紙を連想する柔らかなこの部分の歌詞が胸に響いた。

 

曲名が「ユースレスマシン」と聞いて思い浮かべたのはなぜかタイムマシンで、タイムマシンの無い現代に、それを使わずどこにでも行くことの出来るものという意味なのかなと思っていた。

“ユースレス”という単語をそのまま訳すと、【役に立たない、無用な】という意味合いで、そのタイトルのついた曲にこんなにも憧れが満ちているのは、この歌を歌うハンブレッダーズがそれを信じ続けているからだと思う。

 

 

この曲がリリースされたのは、2020年2月19日で、元からある曲に今の状況を勝手に重ね合わせてしまうのは、作り手にとって不本意なのではないかと思ったけれど、こうなっていてもなっていなくても、私は「ユースレスマシン」に心動かされていたと思う。

ただ、この状況で考えずにいることも難しい。

開催することのできないライブ。中止にせざるをえない舞台。道理は分かっている。人が集まらない方がいいこと、もしもがあってからでは取り返しがつかないこと。音楽や、舞台が必要のないものだと言われているわけでもないことは、頭では分かっている。

でも心が悲しいのは、スケジュールが組まれてその日に向けて動いていた多くのスタッフさん、セットを組む人たち、物販のグッズを作っていた工場の人たち、そして演者さんがいて、待ちわびて毎日を過ごしていたお客さんたちがいたこと。当日を目の前にして開催できないという判断を下さなくてはいけない双方の関係性に思いが見えるからで、やるせない気持ちがただただ募る。

 

でもこんな時に一つ理解したこともある。

これまで私はどこか、イベントやライブの当日を誰よりも楽しみにしているのはお客さんたちの方だと思ってきた。

しかし次々と延期、中止になる公演の発表があるたび、演者さんやアーティストが悲しんでいることが文面から伝わって、ラジオで話をした高橋優さんの声からは、ぶつけ所のない悔しさが溢れていた。ライブの日に向かって進んで、一番楽しい場所だと思っているライブがなくなった時、どうしていいかわかんないと話していた高橋優さんの言葉に、楽しみにしていたのは観に行く側だけではなかったと、気づかされた。

スケジュールを組むのは事務所の意向でもあるだろうし、エンターテイメントは仕事であることも事実だから、それを観に行くからには冷静さも持つように心がけていないと、互いのバランスを崩しかねないと思っていた。

だけど、出る側にだって負担ばかりではなく楽しみがそこにあったことを、今回のことで知った。

振替公演になった関ジャニ∞の47都道府県ツアーも、発表の後に何かできたらとファンクラブ向けの動画アップやブログが更新されている。ライブをまるっと配信したaikoさん。赤字になるとしてもDVD化を決めた舞台。様々な形で、どうにかこうにか今出来るエンターテイメントを続けようとする人たちがいる。

 

息を潜めて待つことしかできない状況に苦しさを感じるけど、どうにか乗り越えた先で、またライブを舞台を全力で楽しむために、自分の健康と心を守ることが大切だと思っている。

分かるんだけど、わからないこと。

そうなんだけど、そうじゃないこと。

グシャグシャとなってしまう、好きで救われてきたからこそのエンターテイメントへの思いを胸の高鳴りごと蘇らせてくれた、ハンブレッダーズの「ユースレスマシン」

必要だから、こんなに悲しむ人がいる。なくてはならないものだと、はっきり言える。当たり前にどこかの劇場で、どこかのライブ会場で、多くの人が楽しむことのできる毎日になるまで、乗り越えていきたい。