ドラムが輝くスウィングなリズム - Official髭男dism「夕暮れ沿い」

 

一度だけだった 目があっただけだった

こんなに愛しくなってしまうとは

 

いきいきとしたドラムの音がとびきり楽しい。

ボーカルの藤原聡さんの声が柔らかくふわっと入って、並走するように、かろやかに奏でられるエレキギター

間奏になって前にくるベース音をきっかけに、曲調がぐっとジャズなムードになっていく。跳ねるピアノ。

この雰囲気、やっぱりぐっとくるのはこういう曲調なんだよな…と抗えない好みに笑ってしまいそうになるけど、好きなんだからしょうがない。

 

イントロに惹かれたつもりが、サビにきたこの歌詞を聴いてうわあ好き!!と持っていかれた。

好きなものを見つけた時に脳内に流れるテーマ曲はこれで決まりだと思うくらい、身に覚えのある感覚が曲の中に目一杯つまっていた。

 

3月1日放送の‪関ジャム‬は「ベース&ドラム リズム隊特集」で、Official髭男dismの曲「115万キロのフィルム」が紹介された。

翌朝、聴きたい曲の気分はすっかりOfficial髭男dismになって、iPodで「115万キロのフィルム」を再生した後はアーティスト括りのシャッフルにして聴いていたら、初めて耳にするイントロに出会って、あまりに好みで一曲フルで聴いた。

目当ての曲だけではなくて、アルバムごとiPodに入れておくと、時間が経ってからこういうことが起こるから嬉しい。

 

Official髭男dism夕暮れ沿い

作詞作曲:藤原聡さん

アルバム「ラブとピースは君の中」に収録されている。

このアルバムタイトルの言葉並びがまた可愛い。その作品の中に収録されているのが「夕暮れ沿い」だと考えると、確かにぴったりだとテンションが上がる。

 

小笹大輔さんの弾くエレキギター、楢﨑誠さんのベース、松浦匡希さんの叩くドラム、藤原聡さんのピアノとボーカル。

小笹大輔さん、楢﨑誠さん、松浦匡希さんのコーラスが心地いいのもOfficial髭男dismの魅力だと思っている。

 

「夕暮れ沿い」を最初に聴いた時、イメージしたのは卒業式の一目惚れ。

体育館で卒業生入場を眺める主人公が、もうさよならの決まっている相手に一目で恋をしてしまう風景が思い浮かんだ。

“制服”や“ダンス”という単語を耳で聴いて、そう思ったのだけど、あらためて歌詞を文字として見ていると、届かない片思いのようにも感じられるし、もしかしたらアイドルへの思いだったりもする…?と、様々なシチュエーションに当てはまる曲に思えた。

実際に、頭では学生の甘酸っぱい恋をイメージしながら、心によぎっていたのは関ジャニ∞丸山隆平さんのことで、無意識の受け取りかたとして的外れなわけではなかったのかもしれない。

 

一度だけだった 目があっただけだった

こんなに愛しくなってしまうとは

メロディーラインが絶妙で、さらっとしているのに切なさがある。

“だけだった”と言葉にすることで、特別ではない、それだけのことだと自分に言い聞かせているようで、静かに大きく揺れ動く動揺が伝わってくる。

だけど、“こんなに愛しくなってしまうとは”と自覚するほどに心の中には思いが溢れていて、好きとも違う“愛しく”というある意味で古風な言い回しをするところに、主人公にとって大切なその感情が読み取れる。

さらにこの歌詞で特に好きなのは、“しまうとは”という部分。

自分の予想に反して思いもしなかかったことが起きている戸惑い。「しまうなんて」でも「しまった」でもなく、“とは”で言葉を止めるところがいい。何と言っていいのか分からず、そのつづきに迷う感じが、ぎこちなくていい。

 

目と目があうことの威力がどれほどのものか。

文字通りの意味として受け取ることもできるけれど、抽象的な意味でも、ライブで。舞台で。テレビや映画で。

それぞれにある、出会ってしまった瞬間こそ、目があった瞬間なのだと思う。

 

 

忘れたいと嘆いた夜も なにも伝わらなかった声も 
全部全部そっととっとくのは僕の方

“そっととっとくのは僕の方”という自己完結がかなしくて、だけど大切に胸の中でとっておけるなら、それもしあわせかもしれない。

曲が進むにつれてスウィングが加速するピアノ。

藤原聡さんのボーカルは声量抜群なハイトーンも魅力だけど、このフレーズを落ち着いたムードで歌う声も魅力に満ちている。

 

この先何年か巡る月日が君なしで語れなくなってしまった

ワクワクが徐々に伝わってくる歌詞がいい。

自分の日常にある思い出を話しているつもりが、紐付けされて思い出されるのは好きなものと共に歩んだ記憶だったりする。

好きなものがあるからこそ、好きなものに関わる悲しいことがあれば、その思い出は日常の記憶と一緒に刻まれて。

適度な距離感を心がけているつもりでも、君なしで語れる思い出は少ないかもしれない。

 

 

2番になって、“何もかもを忘れたふりして”という歌詞のところで、ドラムが規則性を変えて、シンバルをの音を中心にスーチチッとリズムを刻むようになる。

するとベースの音までコントラバスになったかのような風格に様変わり。

そしてまたサビの爽やかさへとメロディーが舞い戻っていく。

 

あの日の君は今も確かに愛しい でもまだ
うまく言葉じゃ言えないほどに 認めたくないんだな

今好きでいることも、かつての輝いたままの思い出も、どちらも大切なことに変わりない。

ためらいを無くして全力で好きになった時間は、思っていたより長い間、維持も保存もできるみたいで、きっとこのまま色褪せない。

色褪せないことがかえってつらかったりもするけど、「夕暮れ沿い」を聴いていたら、それもいいかもしれないと思えた。

 

ドラムが前面に出ている曲を聴きたい人、カラフルに跳ね回るピアノの音が聴きたい人。

そして、音楽、映画、舞台、どんな場所であっても、抗えない“好き”に落ちたことのある人に、聴いてほしい。