久しぶりに降ろしたワンピースには少しシワがついていて、だけど今日はこのワンピースを着て行きたかった。
濱田英明さん 写真展「DISTANT DRUMS」
2019.9.7-9.29
東京、学芸大学駅から徒歩の距離にある、BOOK AND SONSという建物が会場になっていた。
下車したことのない駅、知らない街。休んでいたいし、今回はいいかな…と行けない理由を見つけようとしたけど、展示最終日だったこの日。今日なら行けると思い立ち、気づけば支度をはじめていた。
もうこの会場では展示をしないかもしれないという言葉を読んだからには、行くしかなかった。
濱田英明さんの写真には、さまざまな表情の青が、ときに淡くときに濃く、穏やかな色合いで表現されていて、見ていると凛とした風が吹きぬける感覚がする。
今回の写真展は特に、“あお”が印象的な写真が沢山で、綺麗だった。
濱田英明さんはドラマ版「この世界の片隅に」のフォトグラファーをされていて、決定的に好きになったのは「いだてん」の運動会を写した写真を見た瞬間。
息を飲むとはこのことだと感じた。
ドラマの中のその人が生きていて、写真のなかで永遠になっている。映像の域を越えて人の人生が刻まれている気がした。
普段は、写真展や美術展にあまり行かない。
自分のペースで歩いて進めないというイメージと、黙ってそこにあるものとどう対峙したらいいかわからない戸惑いを感じるから。
決して近くない距離を越えてでも来てみたくなったのは、展示されている写真だけでなく、空間のデザインが素晴らしいと思ったからだった。
元々こういった建物なのだろうと思っていたら、今回の展示のため、内装を変えてオリジナルな会場を作り上げている。この空間に、行ってみたい。そう思ったことが大きかった。
展示最終日なので人が増える前に見たいと、お昼頃に伺った。
住宅街の中、何気ないアパートメント。
「BOOK AND SONS」と書かれた看板。上からひとつ照らすライトが可愛い。
1階から3階まで展示があり、二人通るのがやっとの細い急な階段を登っていく。それもまた楽しくて。
写真の撮影、SNS投稿可なことを伝えるのに、この表記ひとつで見せるセンスも素敵だった。
白い壁、天井。白は覆い尽くすと威圧感に変わることすらあるけれど、そんなことはなく、洗練されていて落ち着くことのできる空間。
ここに住みたいと思った。
1階に大きく展示されていたのは、空港の広いロビーにぽつんとあるカートの写真。
それがすごく好きで。じっと見て、座って見て、振り返って見て。そろそろ行こうと一旦離れるのに、もう一度と戻って見て。
大好きなあの空港の澄んだ空気感。ここではないどこかへ向かう清々しい心模様。人は写っていないのに、人の影が確かにそこにあって、あおの濃淡と白の光で表現された写真の向こうに想いを馳せた。
空間ごと好きになる写真展だった。
展示を見終えて、商品の並ぶスペースに行くと、ちょうどなサイズのポスターが3種類。この写真を部屋に飾れるの!?と嬉しくなって、迷う暇なく2つも手に取っていた。
綺麗な印刷で紙質もしっかりしていて、なのにお値段が優しい。ポストカードも買うことができて、これで素敵な部屋をつくるんだとワクワクしながら選んだ。
休日になると、ちょっとがんばって出掛けてみるか、堅実に先のこと次の日のことを考えて控えるか、選択を繰り返す。
これだけ関心が湧いているなら、きっと行ったほうがいい。そう思って来てみた。それはやっぱり正解だった。
部屋で休む休日に慣れていると、この一日で一体何ができるだろうと、わからなくなる。時間が過ぎるのがあっという間で、どこにも行けない気にすらなる。
でも、思い立てばこんな一日もつくることができる。そうだった、するかしないかを自分で決める醍醐味はこんな感じだったと、思いだす休日になった。