「夏の終りのハーモニー」哀愁の美しさと内にたぎる熱

 

セミの声が静まって、秋を知らせる鈴の音が聞こえはじめるころ。

丸山隆平さんと大倉忠義さんが歌う「夏の終りのハーモニー」は、懐かしさに包まれているような優しいメロディーだった。

 

9月15日放送の関ジャムセッション

夏の終りのハーモニー

作詞:井上陽水さん 作曲:玉置浩二さん

原曲を歌っているのも、井上陽水さんと安全地帯(玉置浩二さん)のお二人。

関ジャムでは、丸山さんと大倉さんがボーカルで歌い、トランペットを横山裕さん。キーボードを本間昭良さん。ピアノを清塚信也さんが演奏。

口を閉じるのを忘れて見入るほど、素晴らしいセッションだった。

きっと、今回のセッションで丸山さんと大倉さんが歌うのを聴いて、初めてこの曲に触れるということもあるはずで、年代に垣根の関係ない状態で、この曲いい!と思える発見がある。それこそが関ジャムセッションの醍醐味だと思う。

 

歌う曲によって、丸山さんは特に声のチャンネルが変わるイメージがある。

ようこそジャパリパークへ」と「鯨の唄」では、声の波長が変化する。

「夏の終りのハーモニー」を歌う丸山さんと大倉さんの声は、ここ!この声のトーンが好きなんです!!と声を大にして言いたくなる、素敵な相性だった。

 

大倉さんのビブラートが効く低音には、柔和さと包容力がある。揺るがない安定感がありながら、ファルセットや声を張るフレーズになると、一気に儚げになる。

丸山さんの高音が際立ちつつ耳に穏やかな歌声は、まろやかさと秋風のような爽やかさがあって、コーラスで寄り添う時のメロディーに厚みが増し加わる安心感。

 

丸山さんは、気を張っていると音程にしっかり沿う傾向があるのかなあと勝手に思っていたけど、「夏の終りのハーモニー」を歌う丸山さんは揺らぎがあって、溜めもアクセントも哀愁そのものだった。

関ジャム本編でも話されていた、英語のメロディーのようなアクセントのつけかたを踏まえているように感じる。セッションを録ったのが先か後かはわからないものの、今回の丸山さんの丁寧にかつリラックスを心がけている歌声が素敵だった。

「夏の終わりのハーモニー」に漂う、なんとも言いがたい物哀しさと懐かしみが、丸山さんと大倉さんの歌声で表現されていた。

 

丸山さんはライブでも突如サングラスをかけて井上陽水さんの真似を始めたりするので、今回のセッションを見る直前にまさかね!と冗談半分に思っていたら、CM直前のリハーサルのメイキング映像での丸山さんが映った。あの顔…!あれはやってるな…!!ほぼ確実にモノマネスイッチが入っていて、リハーサル限定の衝撃映像を見てしまった。

勿論、セッションでは丸山隆平さんとして歌っていた。なおかつ井上陽水さんの歌いかたや玉置浩二さんの歌いかたに引っ張られてもいなくて、丸山さんのニュアンスで歌を聴けたことが嬉しかった。

 

 

歌詞を文字として見ても、余白が曲の魅力として表れている「夏の終りのハーモニー」

情緒を込めて歌うのは簡単じゃないと感じる。単調になる可能性もあるところを、二人のなかにある曲の解釈で、思いが声色になって、えもいわれぬ胸のくるしさが押し寄せてくる。

歌詞はとてもシンプルで、何行も続かずさらっと終わる。それがまた、すがりつかせてはくれず手からすり抜けていく夏の終りの風情を感じさせて、切なくなる。

 

夜空をたださまようだけ

誰よりもあなたが好きだから

ステキな夢 あこがれを

 

言葉数も少なく、だけどそこに込められた“言わない部分”を想像すると、語らないことにある意味深さが心に染みる。

《さまよう》という言葉は漢字に置き換えることもできて、漢字だと《彷徨う》と書ける。それはそれで素敵な気もするけど、「夏の終りのハーモニー」は、ひらがなづかいが特徴的なセンスの歌詞になっている。

《憧れ》も《あこがれ》と表記されていて、詞というよりも詩の魅力がある。

 

星屑のあいだをゆれながら

星や夜をあらわす歌に心惹かれる。華美に装わず、抽象的な言葉の魅力をたのしむところもいい。

“あいだを”と歌う時に、“い”と“だ”の狭間に溜めがあるのも好きだと思った。

井上陽水さんの曲を聴いたことはあっても、歌詞を文字としてまじまじと見たことはない。遊び心のある日本語づかいを歌詞の中でもされているんだと知ることができた。

映画「ティファニーで朝食を」を見たばかりだからなのか、名曲「ムーン・リバー」の空気感、間合いに近いものをこの曲に感じている。どちらも、ハンモックに揺られて聴くのがきっと心地いい。

 

完成された原曲から、セッションで歌うために譜面が新しく書き起こされて、関ジャムセッションでのアレンジができる。

セッションに参加するメンバーそれぞれの楽器編成に合わせて、ゲスト参加するアーティストさんと関ジャニ∞がコラボすることの魅力を引き出す、演出とも呼べるようなお仕事は、きっと相当気を遣う作業なのだろう。

今回のアレンジは、原曲でエレキギターが目立っていたソロパートをトランペットアレンジに変えて、ピアノの繊細さも際立っている。

セッションの度にその作業を必要とするアレンジャーさんはすごいと思っていたら、次の関ジャムは

「アレンジャー特集」

歌詞カードで見るたび、“編曲”とは曲にどんな変化をもたらす仕事なのだろうと気になっていた。「夏の終りのハーモニー」のアレンジも素晴らしくて、ますます楽しみになっている。

 

「夏の終りのハーモニー」の穏やかな空気のなか、横山裕さんのトランペットは日が暮れてゆくオレンジの滲む情景を映していた。

横山さんの吹くトランペットが好きな理由のひとつに、どんな時も常に緊張感と向き合いながら、楽器を演奏することにひたむきでいるというところがある。

楽器を持つことに慣れるのも大切だと思うけど、手にする時の緊張や、ぴんと張る空気は、セッションやライブにおいても大切な役割りを持っているように感じる。楽器が手に馴染んで、扱いに段々と慣れていくとしても、横山さんにとってトランペットを吹くことは大切で、特別なことでありつづけるのだと思う。

 

丸山さんと大倉さんのハーモニーは、チークダンスのようにゆったりと添い、色っぽくて、なのにその向こうに、哀愁の美しさと内にたぎる熱が揺らめいて見える。

今日で最後なんだとわかってすごす夏の終りはないけれど、僕と君でも、わたしとあなたでも、記憶はそこにあるまま消えないんだと感じるセッションだった。