スーツの下に隠すこころざしは、ふんどし…!? ー 関ジャニ∞「ビースト!!」

 

曲を聞いたのが先だった、と思う。

今となっては記憶が曖昧なのは、関ジャニ∞のライブ「JUKE BOX」でのパフォーマンスがあまりにも、あまりにも衝撃的だったから。

 

ユニット曲「ビースト‼︎

作詞:錦戸亮さん  作曲:朱鷺羽ソウさん

関ジャニ∞村上信五さん、錦戸亮さん、丸山隆平さんの3人で歌うこの曲。さらに錦戸亮さんが作詞をしている。

映像を制作したのは、いまだ語り継がれる関ジャニ∞の映像作品「8UPPERS」(パッチアッパーズ)の監督をしていた方と同じ、中村哲平さん。

DVDで見たそのパフォーマンス。ああこれはアルバムのリリースから曲を聴いて、ライブを待ちわびて、ドームの空間で衝撃を体感したらどれほど楽しかっただろうと思った。

遊び心が溢れんばかりな「ビースト‼︎」のコンセプトは、ミュージカルのようでもあり、1曲を聴いた時の満足感がすごい。

 

等身大であることをコンセプトに曲が作られることがあるとしても、ここまで会社勤めの日常にフォーカスを当てて、関ジャニ∞の村上さん、錦戸さん、丸山さんが汗の香りのするサラリーマンを演じるというのは、なかなか見られないものだと思う。

きらびやかな姿を見せてなんぼと言えるライブ空間で、時間を割き、この演出を見せると英断した男気に惚れてしまう。

かっこわるいがかっこいいに転じるギリギリを攻める3人の姿。ファンの求める見たいものと、作る側の見せたいものの見極めとセンスに感動した。

くたびれた、うだつの上がらないサラリーマン。でもなぜだろう、それが一周回って色気が漂い、かっこいい。

 

錦戸亮さんがプロデュースする曲にはベース音が際立っているものが多く、管楽器がいきいきと動き回るのも印象的。低音が好きな人にとって、たまらないメロディーラインが数多く作られている。

「ビースト!!」の始まりも、ゴリゴリのベース音が響く。

後ろには微かにヘリコプターが飛んでいるような音。ドームの空間にベースのイントロが広がる様子は鳥肌もので、このなん小節かを聴いただけで「ビースト!!」が来る!来る!とソワソワさせる煽りの効果がある。

 

 

ライブでは、曲の前にまずMVの導入部分が流れる。

社内で上司に企画を提出して熱心に語るも虚しく、企画を突き返される始末。このシーンの、上司の後ろ姿を柱にして振り子のように右に左にカメラを振って、村上さん錦戸さん丸山さんが入れ替わり立ち替わりになる映し方がとても好きだった。3人一斉に映さず、それぞれが働く職場として一目で伝わる演出だった。

上司の前ではぐっとこらえるものの、振り向いた時の!3人それぞれの!顔!!

んにゃろうこんにゃろうと言わんばかりの、いいいー!っとなる感情が全面に出ていて、THE 人間味!な表情が最高にいい。

映像としてきっかり三分割で表情を捉えているところも、画面の圧が極まってパワー3倍という感じがする。

 

不条理への果たし状を叩きつけたい…!そんな願望を内に秘めて、でも結局は今日のランチも決められない決断力の無さ。シーソーのように行ったり来たりしている心境を、「ビースト!!」は明るくさりげなく歌っている。

誰かに向かってやってたんだっけ降参!! 

錦戸さんが、眉の間にしわを寄せて顔をゆがめて叫ぶ“降参!!”は、何度見ても心臓の辺りがギュッとなる。

テンポも変則的で、転調があったり歌詞が言葉数多く詰まっていたりと歌いこなすのも難しそうな曲の中で、ストーリーを見せて、ただ歌っている人ではなくサラリーマンとして生きる日常を演じることのできる表現力の深さを感じる。

 

ライブでの三者三様の登場シーンも魅力的。

丸山さんのステージ下からリフトアップで登場からの腕組みが特に好きで好きで、繰り返し見た。

スローなアクロバットで敵をかわしていく村上さんは、音楽に合わせてピタッと止まった後にパァンと跳ね返す動きが見事。

そしてステージへと出てきたバックダンサーの方達が手に持つのは、電車の吊り革。その間を縫うように両手を上げて通り過ぎる錦戸さん。

電車通勤の演出をするために吊り革の小道具を用意して、ダンサーさんの立ち位置とダンスの動きでシチュエーションを視覚で伝わるようにする、ミュージカルの要素を感じられる魅せ方に心を掴まれた。これならセット転換なく、ダンサーさんたちがはけるだけでスムーズに次のステージ移動をすることができる。

でも素晴らしいと思ったポイントは、効率よりもなによりも、あっ電車だ!と見て気づいた瞬間のワクワクだった。

 

広いドームの空間で、主役の3人が上下しっかりとスーツ姿。

さらにダンサーさんたちも全員スーツで、景色としては地味になるはずが、魅力あふれまくり。

ライブでのセットリストのなかで衣装替えを考慮すると、簡単に脱ぎ着できる作りにしてあるといっても革靴から靴下まで揃えてスーツ姿になることは手間が多い気がするけれど、中途半端にジャケットだけを羽織って下は次の衣装…ではなく、しっかり統一してスーツでまとめたことで、世界観が完成されている。

 

 

さらには、ライブでのみのアレンジとして、ベースソロにピアノが乗るシックな間奏がある。

がむしゃらに歌っていた姿から一変、ダンスだけでダンディーに踊る姿は、まさに緩急の魅せ方。

黒ぶちスクエアメガネを掛けて、気だるげに見せる錦戸さんからは哀愁のフェロモンが。細身のスーツは村上さんの脚の長さを明らかにして、ベルトが丸山さんの腰の位置の高さを物語る。

 

なんて大人な…と息を飲んでいると、その後すぐに様子がおかしくなってくる。

暗転が明けて、浮かんでいるのは大きな人形型バルーン。歌詞にあのフレーズはあったけど、まさか、まさかね…そう思いながら見ていると、スーツを潔くはいだ3人はふんどし姿に。

 

ライブDVDとして画面越しに見ている自分でも、ポカーン。

えっふんどし!?ありなの?事務所的に許可は、ドームは許してるの??と完全に今更でよくわからない心配をして、何を見せられてるの??と“戸惑い”が大きな文字で頭の中を駆け巡る。

しかも本気のふんどしなんですけど…そんなにポップにお尻映されましても…仁王立ち、からのなにその錦戸さんのドヤ顔…!!

ツッコミどころしかない。なぜそんなに堂々としているの…序盤のスーツ姿にわあー似合ってるーとふわふわしていた自分はなんだったの…

ミュージカルを見ていたつもりが急に新喜劇が始まったみたいな衝撃を受けた。たぶん新喜劇でもここまではしない。

 

なるほど、関ジャニ∞のライブは何が起こるかわからないんだ!と、期待の眼差しが生まれた瞬間だった。

その後、期待は裏切られることなく、キャンジャニとして女装姿での登場、「ハダカ」でのまさに99%ハダカでの登場などなど、驚かされっぱなしだ。

 

 

全力のふんどし。いっそ清々しくなってきた。

恥ずかしさなど昨日に捨ててきたわとでも言うようなドヤ顔。ちょっとでも照れられたら見ているこっちも恥ずかしくなるけど、一周回ってこれはかっこいいのでは…?という気になってくるから不思議。

しかしやっぱり、ふんどしをはためかせて颯爽とドームを横切る景色はシュールすぎる。力の限り押して走るスタッフさんありがとう…!という気持ちになる。

 

サビにある、

Somebody said what do you want?

え…?やっぱり…ちょっと待ってよ!強い心‼︎

歌詞の語感と、含まれた意味みたいなものが好きで、【一体何が欲しいんだ? 誰かが言った】と訳せるフレーズに、日々突きつけられる問いにひたすら返答を打ち返す、そんな慌ただしさが表現されていて、世知辛くて目頭が熱くなる。

 

締めは、錦戸さんが“勇ましさ”のイメージから連想したのであろう方々の名前を、拳を突き上げてさけぶ。

曲にする上での権利や許可をクリアするため、下の名前しか呼ばないという手段が可愛いような面白いような。フルネームだと個人名を掲げることになるけど、確かに名前だけなら他にもそういう名前の人は居る。

抜け道の見つけ方、いたずらっぽい遊び心に、錦戸さんが楽しんで曲を作っている様子が想像できた。

 

ユニット曲にはユニット曲の、無限の楽しみがある。

実験室でフラスコを片手に、こっちの色とこっちの色を合わせて、何色になるかを見ているようなワクワク。ライブのセットリストに組み込まれると、その場の空気をガラッと変えるアクセントになる。

歌番組での披露はほぼ無く、ライブ会場に来たからこそ観られる、その時限りのサプライズ。ユニット曲の魅せ方がうまくはまるかどうかで、ライブの満足度は変化するのだろうと思う。

 

インパクトに走ったようにも見える「ビースト!!」

だけどそれは違った。

I wanna be your  Superman!!

錦戸さんの思う“かっこよさ”のルーツと言えそうな、スーパーマン。そしてサムライ精神。今現在の錦戸さんが憧れるものはわからないとしても、当時の錦戸さんは真剣にそう思っていたことが感じられる。

一見ダサいと切り捨てられそうな事にこそ、かっこよさが潜んでいるのだと、「ビースト!!」から教わった。