恋であり、夢である - Nissy「トリコ」

 

「聴いてください!トリコ」

2ndライブの最終日、東京ドームでNissyはそう言って、気球で浮かぶゴンドラに乗りながら「トリコ」を歌った。

ニコニコとした表情のNissyは可愛くて、初めて聴いたこの曲はドームでの景色と共に、好きだこれ!とときめいた感覚の記憶となった。

指でフックを形作ってジェスチャーをする、確信犯的な歌詞、“君の気を引っ掛ける罠”のキュートさに、悶絶せずにはいられない。

 

イントロのトゥトゥットゥーで始まるベース音、レトロなラジオから聞こえてくるようなジェントルマンの声に、指のスナップ音。

トランペットの音色にサックスが合わさって、軽めに弾むエレキギターの音がシネマティックな雰囲気をつくりだす。

曲のテイストが最高に好みだった。

 

君の話は

素直に聞くよ?

だから怒らないで

一緒に帰ろう

 

ここの歌い出し、そっと顔をのぞきこんで話しかけるようなNissyの声色に、毎度毎度、魅せられる。

「トリコ」の歌詞には、“”マークがいくつも出てくる。

Nissyが使いこなす問い掛け口調の素晴らしさは、タイトルでもある「どうしようか?」や「SUGAR」など様々な曲に登場している。

ナヨナヨしてるのとは違うのがキーポイント。ちょっと頼りなさげで、だけど執着愛を隠さずにはいられないNissyの世界観をつくりあげる意味で、格別な相性を持っている。

 

何してもダメな僕だけど

君だけは離さない!

 

その“?”ハテナマークに付随するように、“”で強調される語気が、気持ちの勢いを表していて、その二面性にドキッとくる。

君の気を引っ掛ける罠さぁ No!

想いを寄せる相手への気持ちを可愛く伝えていると思いきや、“君の気を引っ掛ける罠さぁ”という歌詞が出てくるところにハッとする。

甘い蜜と思って近づいたら網が!というような“ワルさ”。でも、怖っとならないのがさじ加減。

この“No!”は彼女からのNoなのかなと思っていて、一枚上手なつもりでいるのに、ファーストアプローチは玉砕している感じが、かっこをつけきれない愛嬌に見えてしまう。

 

彼の視点の間に、彼女の視点が現れるのも「トリコ」の歌詞の楽しいところ。

“No!”や2番での歌詞。強気でいたいから困らせないでと距離を保とうとする彼女の性格が垣間見える歌詞にグッとくる。

 

 

キラキラ 描く 未来

どんどん 過ぎる 今

恋心だけでなく、夢への想いを歌った曲でもあるところに魅力を感じている。

未来を描くのは楽しいけれど、その隙に今はどんどん過ぎていく。どちらも大切で、見失うのはもったいないもの。片方ではなく、どちらもを見つめているところに西島隆弘さんとしての視点も重なる気がして、この歌詞を歌うNissyを見ていると涙がぐっと込み上げてくる。

「本気だ!」なんて 見せないけど

君だけは離さない!

この歌詞に、思いの強さを感じる。

 

 

「トリコ」は、映画「あのコの、トリコ。」の主題歌になっていて、MVには映画と同じく新木優子さんが出演。

芸能活動をしている彼女と、シェフを目指している彼のストーリー。恋人のどちらかが芸能人という職種カップルの魅力と、二人の暮らしのほほえましさにときめき度数はテキーラレベル。喉がカァーッと熱くなるくらいの。

眩しすぎて直視できないので、「トリコ」を映像として見たい時はついライブ映像を選んでしまう。

 

 

Nissyとしてのデビュー曲「どうしようか?」のMVを見た時から続く驚きが、ひとつある。

それは、リアリティを含んだ恋愛模様を思い切って魅せきるところ。

見ていて思い起こすのは、映画「007」

作品ごとに、今回は誰がキャスティングされるのかと注目されるボンドガールのように、Nissyの作品にはヒロインと呼ぶよりマドンナと呼ぶのがふさわしい女性たちがキャスティングされる。

なかなかの挑戦ではと驚いた理由は、Nissyを好きでいるファンとしての心境を想像するとしたら、その設定は抵抗を生む可能性もあると思ったからだった。

それでも、この曲にはその存在が必要。と作品を完成させる上での必要性を感じるMVになっているからこそ、そこに過剰な生々しさは無い。

そうは言っても、複雑に思うファン心があることもNissyは気づいていて、今回はこの人なんだーって調べたりするんでしょ?と言えちゃうあたり、そこまで気づいているんだ…!と驚く。

バランスの難しさがありつつも最大の胸キュンを秘めたコンセプトに、挑戦し続けるNissyを見ていることがとても楽しい。

 

だから、こっちを向いて

ねぇ もっと近くに来て

ねぇ ずっと目を見つめて

合間に入るコーラス、ダンサーさんたちが一歩ずつ歩み寄る振り付けが素敵で、ワンステップずつテンションが高まっていく演出に心躍る。

ずっと目を見つめて”で、Nissyの声が爽やかに空高く伸びていくポイントは、思わず聴き入って動けなくなる。

 

2ndライブでも、Mステでのパフォーマンスでも、

ずっとそばに居てくれたから

恋が走りました

恋が走りました”で、人差し指と中指を足に見立て、走る動きを表現するところが好きで。切実さが溢れている気がして、心がギュッとなる。

「トリコ」はやっぱり、恋というベールをまとって、夢に向ける思いを歌った曲でもあり、そこに居る僕と君とのストーリー。

 

2ndライブで聴いた時に、体力も喉も使いきったライブのラストに、初披露で、語りかける歌い方から高音まで行ったり来たりで、息つぎとテンポ感の難解そうなこの曲を歌うとは、なんてチャレンジャーなんだと思った。

しかし楽しそうに歌うNissy。歌い慣れてないから、なんてことは無く、しっかり自分のものにして歌いこなしていて、プロフェッショナルだと感動した。

 

2ndライブの締めくくりと、次へのスタートを繋いだ「トリコ」は、3rdライブへと続き、

そのラストも「トリコ」で締めくくられた。ダンサーさんたちが揃い、灯りを装飾した傘が並ぶ様子は綺麗で、スヌーピーたちとの共演も可愛くて仕方なかった。

想いを向けるピュアさを感じるこの曲。

こんがらがって、ひねくれて、好きってなんだっけ!?と思ったときには、「トリコ」が聴きたい。