お茶の時間をサプライズでプレゼント。Strawberry Afternoon Tea

 

ハンサムになりたい。

わりと強めの憧れ、ハンサム。

 

英国紳士みたいにスマートで、ジェントルマンに。だから今回は、とびきりのサプライズを母にプレゼントすることにした。

前にさらっと「いいなー」と言っていた、苺づくしなアフタヌーンティーに招待する。誕生日でもない。母の日でもない。なんでもない日おめでとうな、いかれた帽子屋さんの気分でその日を決めた。

 

場所は、横浜「インターコンチネンタル ホテル」

THE 横浜とイメージする景色の中に必ずある、赤レンガ倉庫、観覧車、ランドマークタワー。そして、半月の形をしているインターコンチネンタルホテル

去年のいつ頃だったか、そのホテルのラウンジでケーキセットのお茶ができると雑誌に紹介されていたのを見て、行ってみたいんだーと母に話した。

話の流れでホームページを見てみると、アフタヌーンティーもあると紹介されていて、そこに載っていたのが苺づくしなアフタヌーンティー

「ああ!これがいい!」

テンションが上がったのは母。しかしまあ本当に行こうというつもりではなくて、私も苺味のものが苦手だから違うフレーバーの季節がいいよーとかわした。雑誌を開いてあれいいなこれいいなと話すような空気感でその場は終わった。

 

 

ストロベリーアフタヌーンティーが始まるのは1月下旬から。しかもかなり人気。

そのことがぽこんと頭の中にずっとあって、覚えていた。一度は経験してみたかったアフタヌーンティー、せっかくならホテルのラウンジで時間を過ごしてみたいなと思っていたから、ここに決めようかなと思いが固まり始めた。

 

本人さえ言ったことを忘れていそうな「これいいなー」をしっかり覚えておいて、びっくりさせてみたい。

区切りとなる記念とか感慨深い感謝の気持ちとか、そういうことではなくて。全くないと言ったらそれも違うけど、もうとにかく、喜ぶだろうな!の思いのみ。

 

とは言いつつ、ここホテル。横浜のインターコンチネンタルホテルであることは特別なことだった。

私が幼い頃。このホテルに何度か来ていて、ここで食事をしたこと、ロビーの景色、どれも今でも覚えている。だからこそ、時が経って、そう気軽には立ち寄る気になれなくて、いつも景色として外から月のようなカーブを眺めるだけ。

大事にしていた時間がスノードームのようにそのままで閉じ込めてある場所だった。

あの場所に居られることのスペシャルさを何も知らないまま、子供だった私は親に連れられて時を過ごした。いつしかここへ来ることもなくなって。スペシャルからは遠い日々に今はいるけれど、連れて来てもらっていた場所に私が連れて来るのも楽しいかなとありったけの背伸びをして。

 

予約をしたのは1ヶ月前。

アフタヌーンティーというのはスコーンやサンドイッチ、ケーキがミニサイズでいくつも乗っかっていて、見るからに華やか。

お値段もそれなりに。覚悟はしていたものの、2人分かと思った価格が1人分で、予想の倍!と気づいた時はさすがに、ちょっと待ってくださいね…と深呼吸の時間を設けた。土日は軒並み予約が埋まっていて、なんとか押さえたティータイム。

 

予約はOK。でもサプライズの難関はここから。

ちょうど赤レンガ倉庫では「ストロベリーフェスティバル」が開催されている時期で、そこに行きたいというリクエストと、バレンタインも近いのでチョコレートも買いたいというリクエストが母から伝えられた。

そのなかに挟みたいアフタヌーンティー

頭を抱えた。ストロベリーフェスティバルで苺を食べる気満々の母…あまり食べないで!と言う不自然さったらない。どうするべきか。どっちの予定を先にするか。計画を隠しながら計画を立てるのは本当に難しくて、ああもうサプライズを言ってしまおうか!と噛み合わない会話に、ネタバラシをしてしまったほうがスムーズなのではとやけを起こしそうにもなった。

 

それをグッとこらえて計画したプラン。

ストロベリーフェスティバルからのストロベリーアフタヌーンティーで、フェスティバルでは買って帰るものはいくつでも!食べるものはクレープだけね!とやや理不尽な約束を。

さらにホテルのラウンジへ行くことになるから、母が服装を気にすることがないように、少しヒールのある靴で、ちょっとお洒落してねと、勘付かれない具合を見計らいながら伝える。せっかくのお出掛けだし、写真撮るから。という理由で納得してくれた。

 

 

当日。天気は晴れで、風もなく暖かさも感じる桜木町は久しぶりだった。

前の日に届いた予約の確認メール。彼女を連れて行く彼氏はこういう気持ちなのかと思いながら、しっかりと確認した予約時間に合わせて移動。

その移動も、時間が早すぎてもいけないし遅れるわけにはいかない。急かすのが最も不自然だと極力素知らぬ顔で、幸いストロベリーフェスティバルのお目当てはスムーズに買えて時間にゆとりもできた。

「次どこ行く?」と聞く母と一緒に、懐かしいからホテルを見に行きたいと話しをしてインターコンチネンタルホテルへ。

 

私も十数年ぶりの訪問。

入り口ってどこ?あのいつも見ていた景色はどこだっけと思いながら、ついにホテルへと到着した。

覚えていた。大きな花瓶に飾られた花も、両側から繋がる大階段も、フロントの位置も。

変わらないなあと感動だった。不思議な感じがするのは多分、記憶に残る景色はもっと天井が上の方にあって、広くて、見上げる景色だったから。大人になった自分では、ちょうどいいサイズになった空間で、子供心に見る空間の広さはあの頃だから感じられるワクワクだったのだと悟った。

 

カムフラージュであっちを見たりこっちを眺めたりしてから、お手洗いの鏡の前で呼吸を整える。気持ちはさながらプロポーズ直前の彼氏。

ラウンジは2階。「上の方も見てみようよ」とエスカレーターに乗ると、上がった先に今回の目的地「ラウンジ&バー  マリンブルー」が見えた。

 

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入り口にはストロベリーアフタヌーンティーの案内が大きく置かれていて、近づいて「苺だってー」と言う母を横目に、私はもう心臓ドキドキ。どう入るのがスマート?!店員さん来るかな気づいてくれるかなこっち見てー!と目で呼びかけて、店員さんがこちらへとやってくる。

「ご予約はなされていますか?」

「はい」

「お名前を…」

この瞬間がドキドキの最高潮だった。

 

「こちらへどうぞ」と案内されて、へっ?となっている母に、まあついて来てとジェスチャーをする。

案内された席が素敵で、ラウンジを俯瞰で眺めることができて港も見える。いつも向かい合って座ることが多いけど、今回は横並びで2人してソファーにゆったり腰かけた。

どうしたのと驚いている母。テーブルにスタンバイされたメニューカードと苺色の赤いフキンを見てわかったようで、サプライズは成功。

 

 

テーブルにそっと置かれたアフタヌーンティー

 

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ケーキもエクレアも苺づくし。スコーンにも苺の果肉が練りこまれている。スコーンにつけた苺ジャムが美味しかった。

 

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お昼ご飯を食べずに行って、甘いもの尽くしで大丈夫かなと思っていたけど、スコーンもあるし1段目にはお食事系のものが乗っていて、最後のほうにサンドウィッチをとっておいて甘さから戻ってこられてよかった。 

 

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好きな飲み物を時間内であればいくつでも選ぶことができる。紅茶の種類がいくつもあって、飲んだことのない紅茶も飲めた。

アイスカフェオレはコーヒーとミルク半々なバランス。ミルクも砂糖も置いてもらえるので調整できる。アフタヌーンティーなのだから、やっぱり紅茶を合わせたいなと2杯目は「ハルムッティー」に。初めて聞く名前だったけどアッサムティーのことらしく、メニューに丁寧に名前と味の特徴が書かれているのが嬉しかった。

“アッサムにミルクを注いだ…”と歌っていた関ジャニ∞の「ロイヤルミルクストーリー」を思い浮かべてついアッサムティーを頼んだ。

 

給仕をしてくださる方の装いもビシッとかっこよく、「お飲み物は何になさいますか?」とたずねられるだけでお嬢様扱いをされているような、背筋のしゃんとする気分。自然と所作も丁寧になっていく。

 

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目にも綺麗なスイーツを食べながら、港が見えて、海保も見えて。

途中、ピアノの生演奏がどこからか聴こえて、アルマゲドンのテーマやララランドの曲を聴きながらお茶をする時間があまりに贅沢で、夢見心地だった。

母も喜んでくれた。

 

いくつもあるスイーツを食べきれるだろうかと心配していて、でも食べ切ることができた。朝を食べず、お昼として食べてお腹いっぱいだったから、アフタヌーンティーをするならやっぱり空腹を作ってからがいいなと思った。

 

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最後に飲む紅茶に選んだのは、「シンガポールブレックファースト」

“緑茶、紅茶、芳醇なバニラ、スパイスをブレンドし、ほのかな甘みが余韻に残る複雑な味わいが特徴”と書かれた説明に興味を引かれた。複雑な味わいと表現してしまいたくなる味がどういうものなのかを知りたくなった。

飲んでみた。おいしい。確かにスパイシーな味わいはあって、バニラの雰囲気もある。本当に未知の、初めての紅茶で、説明を考えた人も相当考え込んだのだろうと思う複雑さ。

驚きだったのは、どの紅茶も渋みや苦みはほとんど無くて、紅茶には砂糖を一度も入れなかった。それくらいに飲みやすく、美味しい紅茶だった。

 

おしゃべりをしながら、こんなに穏やかに過ごす時間の使い方があるのだなと知った。せかせかしない。みんな静かに、ひとときを過ごしに来ている。

人と会う時、あの場所に行きたいあれを見たいと思うよりも、私はゆっくり落ち着いて座りながら、なんてことのないおしゃべりをしたい。会っている、目の前にいると実感する時間がほしい。

アフタヌーンティーはその理想をとても素敵な形で具現化してくれた。

大好きな横浜で、いつかもう一度来たかったインターコンチネンタルホテルで、特別な思い出がひとつふえた。