深海に差し込む光のような。-‪関ジャム‬セッション「Sailing my life」

 

ベートーヴェンのピアノ・ソナタ「悲愴」第2楽章

青の照明と、高く上から差し込むライトが海の底にいるようで落ち着く。

 

ピアノの魅力について紹介したこの日の‪関ジャム‬。

グリッサンドがあんなに指に負担のかかるものだとは思っていなかった。そんなグリッサンドを、セッションの始まりに弾いてくれる清塚信也さんのサービス心が素敵だった。

セッションでは清塚信也さんがピアノで参加。キーボードに村上信五さん、ドラムに大倉忠義さん、ベースに丸山隆平さん、ボーカルに錦戸亮さん、安田章大さん。

 

何度も何度もこのセッションを見ている。

普段はクラシックのみの音楽を聴くことがない。だけどこのセッションは、数分のなかに言葉に変えきることのできない癒しがあって、聴こえてくる音に耳が喜ぶのがわかる。

「悲愴」のメロディーがこんなに好きだったことは自分でも知らずにいた。

 

こんなに惹かれるのは、長年引き継がれてきたクラシックとしての美しさのみならず、清塚信也さんのピアノ、そして関ジャニ∞の演奏と歌に心震えたから。

鼓動のように聞こえる大倉さんのドラム。定期のリズムのようで不定期なつかみどころのないリズムが危うさや儚さを感じさせた。きっと叩くリズムとしては指標を見つけずらい難しいものだったのではと思う。

「Sailing my life」と加えられたタイトルのこの曲には、平原綾香さんと藤澤ノリマサさんがつけた日本語詞がある。歌詞は普通の曲に比べて長くはないけれど、セッションではアレンジのため二ヶ所ほど歌っていない歌詞がある。すごいと思ったのは、歌詞の繋ぎ合わせ方と、言葉として明言されているメッセージの強いその歌詞を飛ばしながらも、「Sailing my life」というタイトルの通りの意味を伝えきることができているところにあった。

Sailing my life 旅の途中

僕が生まれた理由を教えて

強すぎない、かすれる一歩前の声の出し方で歌う安田さん。少しがたつくと音が消えてしまうような繊細な歌声で、この曲の空気に寄り添っていた。

安田さんが書くジャニーズウェブでの言葉や、時折こちらにわかるような形で伝えてくれる思いを見ていると、このセッションで歌う歌詞ひとつひとつに安田さんの今の思いそのものが入り込んでいるようで、錦戸さんと二人で歌ったなかでも、どのパートを歌うかというところまで考えられているように感じた。

 

安田さんのボーカルが淡さと優しさを表現するなら、錦戸さんのボーカルは強さと悲痛さを表現していた。

クラシックとしての解釈は自分にできていないけど、曲を聴いていて思うのは、海のような広さと波のようなゆらぎで包む柔軟さこそが盾よりも強いという感覚で、穏やかだけれどそこに秘めている芯の確かさには憧れさえ抱く。

低音で響く錦戸さんの声は淡さと対照的にどしんと強く、揺るぎない。けれどそのなかで、“深い海の底で”と歌う錦戸さんが“底で”の部分で音をスパーンと跳ね上げる。喉全開という感じの声の出し方に、当てに行くと決めた音に全力をかけるかっこよさがある。そして、“日は昇るよ”の部分では、喉を締める声の出し方。叫びのようにも聴こえて、胸を締めつける切なさが錦戸さんの歌声にはあった。

 

大倉さんのドラムが鼓動なら、丸山さんの弾くベースは刻み続ける静脈のよう。

海に差し込む光のようなスポットライトが当たる丸山さんが綺麗で、すとんと落ちたヘアスタイルもベースを持つ立ち姿も絵になっていた。

安田さんの歌う間合いに視線を向けながら演奏する姿や、ピントは錦戸さんに合っているなかでも後ろで錦戸さんを見てリズムを測っている様子はわかって、今回のセッションでカメラアピールをすることはないけれど、セッションという空間で大切な役割を果たしていることが見てとれた。

 

このセッションで大好きだったのは、

僕の描いた 夢へ漕ぎ出そう

というパートで安田さんがコーラスへとすっと立ち代るところ。歌の中での持ち場移動が自然で、さっきまでメイン、次の瞬間にはハモりの位置へと変わっている。

楽譜に浮かぶ音符が見えるような、ここでのコーラスが本当に好きで、美しい旋律に見とれてしまう。ひとつずつ音符に触れるように安田さんの歌声が乗り、なだらかにメロディーが進む。

 

最後の方は二人で歌うパートになっていて、伸ばし方や切り替わりのタイミングがぴたりと揃う。

音を合わせながらでは難しいはずなのに、相手との呼吸を合わせて、声の張り具合、高音の当て所も含めて互いの個性を見つめ合っているからこその息の合い方。

 

 

ピアノならではの強弱という魅力が、ボーカルをした二人にも現れているセッションだった。

ほかの歌を歌えばまた声の色は変わって、安田さんが明るく強いボーカルを見せることもあれば、錦戸さんが儚く歌うこともある。

今回のセッションだからこその化学変化。「Sailing my life」だから見ることができた空気感に心惹かれて、何度も何度もその海へと潜っていく。