大阪駅の大冒険

 

おいでやす商店街からすぐの中崎町の駅の階段を、地下へとどんどん降りて行く。何度も通った改札を今日も通って駅のホームで電車を待った。

東梅田まではあっという間で、東梅田からの梅田までの道も、気づけばほとんど迷わず歩けていた。

ゆりやんレトリィバァが広告をしている、梅田駅の大きな柱のポスターが通るたびに印象的で、“迷えるって、ステキやん?”と書かれたキャッチコピーが梅田ダンジョンを上手いこと表していて、迷うことを逆手に取った面白い広告を作るなあと通るたび思っていた。

 

梅田駅で時間をつぶそうと来たけれど、どこに行こうかと歩いていたら、ルクアにたどり着いた。

やすとものどこいこ!?でルクアって見た気がする!と思って、雑貨屋さんも多そうだったので大阪の締めはルクアになった。何とも普通だけどそれがいい。

スーツケースをまずはロッカーに預けたいよなぁ…と探していると、ルクア出入り口の近くにロッカーを発見。必要な場所にあるものなんだなあと感心した。中段に1つ空きがあって、少々お行儀がわるいながらも膝とお腹と使ってスーツケースをなんとか持ち上げ、ぐいーっと押し込んだ。

こういうのってロッカーの場所忘れそう…と一応全体の写真を撮ってから、ルクアへと入って行った。

 

日曜日のセールシーズン。エスカレーターに乗る順番待ちができるほど、ルクアはお洒落なお姉さま方でいっぱいだった。

本当にみんなお洒落で、すごい…キラキラしている…と思いながら、ムーミンショップを楽しく眺めたり洋服を見たりした。中崎町で見つけた「にじゆら」の手ぬぐいをここでも見つけて、最後の最後までストールを買うかどうか迷った。

自分が大阪に適応しはじめていると感じる瞬間があるたびに嬉しくて、ペットボトルの飲み物が買いたくなっても、ルクアを出て少し歩くと京都から帰った時のことを思い出して、あっちの方に自動販売機があったとスタスタ歩いて行けることが楽しかった。

その通りすがりで見た大阪駅のホーム越しの空が綺麗で、少しの間ベンチに座って見ていた。

 

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ルクアは大盛況。PLAZAのレジにも無印用品のレジにも行列ができていて、ただならぬ混雑を感じながらも、ショッピングは楽しかった。あまり関東で見かけないブランドで、可愛いなあと思う水色のシャツを見つけた。

大阪資金は大幅にゆとりを持って残すことができたけど、使ってしまう?持ち帰る?と頭の中で決算会議。

10日間やりきったから!を免罪符に、今日は好きなものを買っていいことにした。シャツをセール価格で買って、アクセサリー屋さんでこれだと思える大ぶりのフープイヤリングを見つけて、それも買った。

夏の雰囲気だけど、月がぶら下がるイヤリング。ケバケバしすぎない、好みのデザイン。ひとつ見つけると、3点セットにしたくなる謎のさが。華奢なゴールドにわずかに大きさが違うパールのついたリングと、サンゴ礁のような髪留めを見つけて、この3つを大阪最終日のご褒美とすることにした。

 

 

買い物が楽しくなってきたころ、スマホにかけていた、新大阪へ向かう出発のアラームが鳴った。

行かなくては。そう思ってロッカーの場所に向かおうとするも、思った出口に出られない。ルクアはあまりに広くて、出口がいくつもあるから、ぐるぐるとフロアを移動しているうちに、どっちが前か分からなくなってしまった。

自主的ぐるぐるバットじゃないか…と思いながら、実際はそんなことを考えている場合ではない。ゆとりを持ってはいたけど、迷う時間は想定外。

てこずれば新幹線に間に合わない。だんだんと焦りだす心拍数。え…どうしよう!

撮っておいた写真を見返すも、ロッカーの全体写真しか撮っていない私。ルクア何階から入ったかを写していない。なんの意味もないじゃないかー!

ひとり漫才が止まらず、必死に入って来た時の景色を思い出そうにも、どんなお店があったか、浮かれポンチでエスカレーターに乗ってしまったせいで思い出せない。

 

とにかく出なければ。とルクアの出口をまず探して、駅から出てすぐの所だったから…落ち着けば見つかる…落ち着け……と自分に言い聞かせ、歩いた覚えなんてない場所をとりあえず進む。

この階じゃなかったと思うんだよな…エスカレーターがあったから…と記憶をたどりながら、なんで最後の最後にこんな…と人波に沿って肩を落としながら歩いていると、階段の上の方から歌を歌う声が聞こえてきた。

そうだ!ルクアに入る時、ストリートライブをしている人が見えた!とロッカー周辺の景色を思い出して、上だ!!と階段を駆け上がると、はじめに見たあの景色だった。

よかったよおおと泣きつきそうな気持ちでロッカーに駆け寄り、鍵を開けてスーツケースを取り出した。

ストリートライブの人、ありがとう!と耳を向けると、歌っているのはドリカムの「未来予想図」だった。しかも大阪ロマネスクを巡ったあの日、aikoさんの「カブトムシ」を歌っていたあの人、Ellieさんの声だった。

きっとこの曲を聴くたびに思い出します…と染み入る気持ちで、歌声を背中に御堂筋線へと乗り込んで、新大阪駅を目指した。

 

 

夕方の御堂筋線。電車は空いていた。

席に座って、自分の前にスーツケースを固く持って、電車が出発した時にどれだけ安心したか…慎重に慎重を重ねるのに、本当にまったくもう。

けれど無事に、あまりタイムロスも無く新大阪駅へと到着して、余裕を持って改札内へ。

新大阪駅に来たなら「yokooのビーフカツサンド」を買って帰るべしという掟を聞いていたので、お店を探すと、フードコートのような空間になっている室内にyokooはあって、持ち帰りでオーダーをすると、注文を受けてから厨房で切って箱に詰めてくれた。

新幹線で食べる夜ごはんも手に入れて、お水も買って準備万端。なのに。

 

新幹線に遅れが発生していた。

えっ!とまた騒がしくなる自分の心拍数。

すでに来ているはずの新幹線はこれから到着で、自分の乗る予定の新幹線よりも一つ後の新幹線の方が、始発なので先に出発する予定。全体的に20分ほどの遅れ。

あとは新幹線に乗るだけかと思っていたのに、イレギュラーな事態。点検のための遅れなので、必要なこととはわかっているけど、電光掲示板の見方もよく分からないしややこしいし、何より一人で心細いのにどうしたら…とひたすら掲示板を見上げて、駅員さんにつめかける人たちの近くで駅員さんの説明を聞いて、状況を整理する。

一刻も早く着かなければいけないのにはわけがあって、「関ジャム」の渋谷すばるさんラストの生放送に何としてでも間に合わないといけないからだった。

当初の予定でも、ラストの放送がこの日にあると思っていなかったから、大阪優先のスケジュールで、まあ間に合うかなというつもりだった。けれどラストの3日間で、自分にとっても大阪から帰ってその日の夜の関ジャムとなれば、絶対にリアルタイムで見たかった。

 

指定席に乗らず並ぶか、取ってある席で帰るか。

慣れないことを一生懸命に考えて、それでもやはり予定通りの新幹線で帰るのが安全策だと思い直した。

地元までのルートを検索し直して、一切の無駄をのぞけばギリギリ間に合う乗り換えを見つけて、これでいくしかないと決まった。泣き言を電話で話しながら、時間はようやくやってきて、新幹線に乗り込んだ。

 

席を見つけて、スーツケースを上に仕舞おうとするのだけど、それがどうにも持ち上がらない。ひとりで格闘技みたいにあれやこれや頑張るけど、膝ではどうにもならないし、腕の力が全く足りない。

無理じゃん…と途方に暮れていると、見兼ねたおばさまが「手伝いますか?」と助け舟を出してくれた。2人がかりで持ち上げて押し込み、ようやく収まったスーツケース。

行きの新幹線でひょいっと持ち上げたおじちゃんの強さを再認識した。そして空いている新幹線ではスーツケースを自力で持ち上げられるかどうかが大切なサバイバル項目であると学んだ。

 

しばらく外の流れる街灯を眺めて息を整えたあとで、牛カツサンドを食べた。

 

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からしをつけて食べるのが絶品で、なんだか牛カツサンドを頬張って食べている時が一番涙腺にきた。何なのだろう。安心感なのか、達成感なのか、美味しさなのか分からなかったけど、ちょっと泣いた。

新幹線のなか、ルクアで買ったアクセサリーを取り出して、ひと通り着けてみたけど、ひとまとめにしてつけるものではないなと思った。そんなさなか、ふとした拍子に買って着けたばかりのパールのリングが折れて壊れるという悲劇が。カチャンと音を立てて落ちたそれを拾った。

えーそんなことある…?大阪での思い出の品を地元に着く前に壊すってある?と呆然と面白くなって、笑ってしまった。壊れる数分前に撮っていた着用写真をぼんやり見つめた。

これ1個じゃなくてよかったかもと気持ちを切り替え、席でぼーっと聴きたい曲を聴いて時間を過ごした。早く着きたい気持ちのせいで到着の時間を1時間勘違いしたりして、そんな早く着くはずないよなと自分の空回りっぷりがおかしかった。

 

新幹線が降りる駅へと着き、すぐに乗り換えルートを移動して、予定通りの電車に乗った。

この時の電車の中での空気感が自分にとっては初めてのもので、数日ぶりの地元に戻り、自分は全く違う場所で時間を過ごしていたけど、ここは何も変わっていなくて。

10日間、私が居なかったことを知る人はいないし、沢山のものを見て経験して、中身の少し変わった自分に気づいているのは自分だけで周りには関係のないことなんだというのが不思議で、透明人間になった気分だった。

それは寂しさじゃなくて、誰も知らない自分の中だけで起きた秘密みたいで、うれしいことだった。

 

最寄駅からは本気の分刻み。導線の無駄なく動かなければ、関ジャムには間に合わない。

ホームに着いて、エレベーターを探している暇はないのでそのまま階段を気合いでスーツケースを持ち上げて登り、改札を出て早歩きでタクシー乗り場へ。

乗り込んですぐに行き先を伝えて、支払うお金もスタンバイ。はやる気持ちを落ち着かせて、ようやく自宅に到着。スライディング帰宅でテレビをつけて正座で座ると放送5分前。

間に合った…やっと深呼吸をした。

 

 

私にとって冒険だった旅の終わり。

頭のなかでスケジュールの締めくくりに書き込まれていたのは「関ジャム」

1分1秒が過ぎるごとに輝いていく時間が、忘れることのない記憶のうつわにさらさらと積もっていくようだった。

表情も声も全部が大切で、‪メンバーが選んだ「忘れられないあのセッション」を振り返って、関ジャニ∞のセッションを本人たちが見ているところを見られるのも貴重なことで、Perfumeとのダンスセッションを見て笑う関ジャニ∞を見られたことが嬉しかった。

メンバーから見たメンバーの音楽での繋がりを強く感じる時間だった。

 

東京スカパラダイスオーケストラとのセッション。

無責任ヒーロー

渋谷すばるさんの発表を聞いた時、このコラボは見られないのだと覚悟した。それが関ジャム‬で実現できると知った時、本当にうれしかった。

演奏を終えて、キラキラとした笑顔でハイタッチをする関ジャニ∞スカパラの姿を見て、この瞬間を見られてよかったと、笑顔にすらなれた。

 

私はライブで「大阪ロマネスク」を聴いたことがない。

十祭のDVDを見た時、いつかこの曲を聴くことを密かな楽しみにしていようと決めた。それはついに叶わなかったと、4月のあの時には思ったけど、‪関ジャム‬での生放送というかたちで、その夢は叶った。

渋谷すばるさんが、歌詞ではない声で大阪の情景を描くあのパートが大好きだった。

その声を聴けてよかった。関ジャニ∞が7人で歌う「大阪ロマネスク」を見ることができてよかった。 

 

LIFE〜目の前の向こうへ〜

気持ちは寂しさに捕まってしまっていたから、ラジオ「大倉くんと高橋くん」で聴いた時も、なぜこんなにも前を向いた曲を選ぶのだろうとわからない気持ちでいたけど、この時に初めてこの曲を選んだ理由がわかった気がした。

ドームでライブを観ているのだろうかと錯覚するほどの熱。「Eighter!!」と叫んだすばるくんの声が、何もかもを突き抜けて届いた。

 

これまで、人の感情が動くのを見るのは苦手だった。あまりに人間らしさを感じてしまうから、喜怒哀楽がはっきりした人といると自分の感情がその色で消えてしまう。伝わりすぎて、不安になる。

でも関ジャニ∞のひとりひとりが見せる人間性は、あるがままなのに見ていて不安にならない。

感情の動きが素直で、そこに繕う意図がないから。

 

見たかったセッション、聴きたかった曲、聞きたかった言葉、すべてを受け取った。

関ジャニ∞は最高にかっこいい。

決まりました、発表しました、で閉じず、会見から番組ひとつひとつの締めくくりがあって、関ジャニ∞自身が一番動揺していたはずの時にラストを見せてくれたこと、心構えの順序を作ってくれたことに胸がいっぱいになった。

永久保存版にします。ありがとうと伝えたい。

 

 

10日間の最後がこんなにドタバタになるとは思わなかったけど、無事に帰ってくることができて、関ジャムにも間に合って、ラストを見届けられたことで悔いのない10日間になった。

いつも何かを考える時、先回りがあまりに得意だから、行って結局戻ってくるなら、行く意味はあるのだろうかと考えてしまう思考回路だったけど、今回ばかりはそれを黙らせて、思いもしないことが起こってくれたらいいと踏み出した。

帰ってきてみて、何がそんなに恐かったのだろうと思ったり、小学生のような門限で帰らずに、夜も飲み屋さんとか行ったらよかったと思ったりしたけど、あの時なりの精一杯で私は生きていたことも本当だから、今やってみたかったことに飛び込んでみてよかったと確実に思う。

いつかもっと度胸がついて、緊張も恐がりも薄まった私がこの挑戦のことを思い出して、よくやっていたなと笑えたらいいなと思う。

自分の心の場所をこんなにはっきりと、手で触れられそうなほどに感じた時間は初めてだった。