うずら

 

目が覚めた。喉はまだ痛い。

これは放っておいてもダメだな…と悟って、面倒だったけれどあとでドラッグストアに行くことにした。

昨日買ったパンをお皿に乗せて、とりあえず朝ごはんを食べた。トースターがあったらクロワッサンはパリパリにして食べられたなあなんて考えながら、テレビを見ていた。きな粉のもちもちパンはほんとにもちもちだった。

 

数日前、マンションにお知らせの貼り紙があった。

点検があるので、この日この日時には部屋に居てください。というお知らせだった。それがわりと真っ昼間で、ウィークリーマンションなのに…一応観光で来てるのに部屋に居ないといけないのか…そもそも本物か…?と疑り深さを発動させて、最初は気にせず出掛けるつもりだった。

でも元気じゃないし、点検に来る人もお仕事なわけだし、次に部屋に入る人に押し付けるのもな…と考え直して、いやだけど時間に合わせて部屋には戻ることにした。

そうなると、お昼は部屋で食べるかなあ。レトルトのカレーと、レンジでチンするご飯が残っているから、冷蔵庫のなかをそろそろ片付けることも考えてカレーにするか。と献立が決まった。商店街でコロッケを買って帰るというのをしてみたかったから、何度も前を通り過ぎていた精肉店を思い出して、あそこの揚げ物をカレーに乗せたら豪華なごはんになるなとトッピングも決定。

 

兎にも角にも、まずはドラッグストアを見つけて薬を買わなくてはいけない。

せっかく大阪に居るっていうのに、ドラッグストアの場所を調べるなんて…と若干ふてくされながら、頼りになるグーグルマップで調べるとマツモトキヨシがあった。行くか…と重い腰を上げて、雨の降るなかとぼとぼ歩いた。

喉の痛さと熱っぽさ、どの薬にしたらいいかは薬剤師さんに聞いたほうがいいよなぁとレジに向かって「すみません」と声をかけ、説明を聞いた。喉に効く薬を選んで、ポカリも買い足した。のど飴のヴィックスはコンビニで買ったし、あとはいいかなとお会計をする。

 

傘をさして、来た道どうりに帰らず、当てずっぽうに歩いた。大体で行きたい場所には出られるだろうと思っていたけど、少し迷った。でも、おいでやす商店街にもう一度たどり着いて、プリン食べて帰ろうとお店に寄った。

雨がたくさん降っていたから商店街に人はほとんど居なくて、島プリン屋さんもその時ばかりは私ひとりだった。

今日もプリンは喉に優しい。静かな時間が商店街に流れるなかで、店長さんと話しをした。

大阪に来ると決めた経緯も、暮らしてみてどんな気持ちでいるのかも、そのままに話した。自分にとっては、これがジャンプの時なんだと思っていた。ここで結果を出さなければと。でも葛藤は来てからも変わらずあって、自分が決めたことなのにもがいていて、これってジャンプじゃなくて、しゃがむバネの時なのかと気がついたことを、ぽつぽつと話した。

「(来られて)よかったね」と、決断できたことをよかったねと言われて、うれしかった。

 

島プリン屋さんを出て、精肉店でミンチカツとうずらの串カツを買った。

メンチじゃなくてミンチって呼ぶんだなーと思いながら、その場で揚げている様子を眺める。先に受け取ったおじいちゃんは「ありがとう」と関西弁のトーンで柔らかく言葉を残して行った。いいなあ、そういうのを自然に言えたらな…と思うけど、「ありがとうございます」ときっちり答えてしまう性分は相変わらずだった。

薬とポカリの入ったビニール袋と揚げ物の入った袋を手に持って、傘さして、なんでもないスニーカーにTシャツで歩いてる普通さがなんかおかしくて、暮らしてるなーと思った。

  

部屋に帰って、カレーを温め、揚げ物の袋を開けると、あれ?一個多い。

うずらの串カツが二本入っていた。初めましてなのに、おしゃべりしたわけでもないのに、よれよれな表情でやって来た私に、おばちゃんからの粋な計らい…

嬉しかった…ただ胃が小さくなっている今、お腹の容量的には揚げ物増量でなかなかチャレンジだった…

 

お昼ごはんを終えた頃合いで点検の人がやってきて、しっかりと立ち会い。

内心びびっていたけど、平気な顔してドアを開け点検を見送り、おつかれさまですなんて言っちゃって。大人だわ…と思っているのが子供なのはわかっていた。