「綺麗」の魔法をかけられて

 

女の子でいるのはめんどうくさいし、私の手には届かない。そう思っていた。ピンクより水色が好きだけど、それでも私は女の子になれるのだろうかと。

吉澤嘉代子さんの曲「綺麗」を聴いていると、魔法にかかる。私には似合わないと囚われていた、キラキラする自分を期待する気持ちが蘇っていく。

 

「スノービューティー」というフェイスパウダーがある。資生堂から出ていて、夏の季節になると、映画と呼べるほど本気のクオリティの広告映像が発表になる。

その存在を知ったのは、星野源さんと二階堂ふみさんという奇跡のような組み合わせで作られた映像を見た時のこと。真夏に降る雪がテーマのストーリー。

雪女と出会った雪男のはなし。

 

好きな映像作品は何ですか?と聞かれたら、雪女と出会った雪男のはなしと答えるくらいに好きだった。

次の年の映像作品は、窪田正孝さんと二階堂ふみさん。その次の年は高橋一生さんと武井咲さん。キャスティングがコンセプトにぴったりで、発表されるたびに感動していた。

毎年毎年、どんなストーリーになるのだろうと楽しみで、スノービューティーに憧れつづけた。そしてついに今年。3年越しの念願叶って、予約をした。

方針変更なのか、今年は映像作品が無かった。ディズニーの白雪姫とのコラボ。せっかく買える思い出の年、映像作品を見られないのは残念だけど、ディズニーも好きだからこれはこれで嬉しい。

そんなふうにして、お化粧のいろはをまだまだ知らないながらも、映像を入り口にフェイスパウダーとは何だろうと知っていった。

 

服は着心地の良いものが着たいし、両手が自由なリュックが好きだけど、それを変えなくてもお洒落は自分なりの方法で見つけられるんだなあと気づきはじめていた。

友人の結婚式をきっかけに、フォーマルな服装やワンピースへの興味も出てきて、パールのついたゴールドのアクセサリーをつけるだけでしゃんと大人っぽくなれるんだとわかってきたり。

 

もうすぐ関ジャニ∞のライブがある。服を新調するのもいいけど、今回はコスメを新調したくなった。

デパートコスメと聞いて思い浮かべるのは、眩しすぎるくらいの明るいフロアに、パレットのようにカラフルな口紅やアイシャドウ。まとめ髪の綺麗なお姉さんにヒールの靴。

微かな色のグラデーションを見るのが好きで、口紅のサンプルカラーが並ぶのを見ているのは楽しい。だから通りかかるたび気になるけど、どんなふうに見たらいいのか分からないから、遠目に眺める一瞬だけが私にとってのデパートコスメの景色だった。

 

数日前に友人と行った、デパートコスメのフロア。

ひとりでは勇気の出なかった空間も、友人と一緒に足を踏み入れてみたら思いのほか楽しくて。

自分の唇にしっくりくる口紅をそのうち探してみたいなと思っていたから、友人のお買い物を隠れみのに試し塗りをしてもらったのだった。

オレンジ寄りのピンクの口紅。つけてみると、店員さんからも友人からも好印象だった。自分で鏡を見た時の、ハッと表情が明るくなる感覚。まさに魔法。

その時には決めずに、試し塗りした口紅の色番号に印をつけたパンフレットを持ち帰った。

 

 

すぐには決めずに持ち帰ったけど、もう一度見に行きたい思いが高まって、数日後ひとりで行ってみることにした。

口紅も探しているけど、友人と来た時に小指と薬指に試し塗りをしたマニキュアの色も忘れらなかった。

ずっと同じマニキュアを使っていたから、デパートコスメとして並ぶマニキュアがこんなに発色のいいもので、乾きも早いとは知らなかった。

 

マニキュアは赤がほしい。真っ赤で、だけど目には優しい色合いのもの。

口紅はオレンジ寄りのものがいい。チークにピンクとオレンジを混ぜているから。

 

店員さんと2人でお話しをしながら、まずはマニキュアを選んだ。ラメのない赤がいいんですと相談すると、PAUL & JOEのマニキュアにはラメのないものがありますよと案内してくれた。試しに塗ってみると、真紅というよりそれもまたオレンジみがかったポップな赤。

1色で塗るより、2色を交互に塗るのが好きだから、その赤に合う色を探す。グレーは憧れるけど、明るめの赤にはあまり合わない。この並びが可愛いとピンときたのは黄色だった。

2色買いなんて贅沢だけど、今日は贅沢をすると決めて来たから、予算に納まるならそれでオーケー。マニキュアはこの2つに決めた。

 

口紅はどれが自分に似合うのか…

オレンジ寄りの中から、ピンクが強めのものと、前回試し塗りをしたものとでそれぞれ塗ってみることに。

ディスプレイに綺麗に並べられた口紅は、色を見ることはできるけど、試すには店員さんにお願いしないといけない。そのハードルは高く思えるのだけど、だからこそ特別な感じがして、そわそわする。

 

銀のスプーンのようなもので口紅を削ぎ取って、筆に取り唇に塗る。

筆の動きで自分の唇の形がわかる。顔に手が当たらないよう、店員さんは手にパフをつけているから、顎にそっと当たるパフの感覚が優しい。

塗ってもらっている間、視線はどこに置いたらいいのか、息は鼻呼吸でいいのかと気になることばかり。結局息を浅くしていたから苦しかった。

 

ピンクが強めの、違和感なく馴染む口紅よりも、やっぱり初めにピンときていたオレンジ寄りの口紅をつけた時のほうが顔が明るくなる気がした。

それは表情だけの問題ではなくて、肌のトーンが上がるのがわかる。肌のトーンが上がるってこういうことか!とようやく理解した。

デパートコスメは売り込むのが上手いから、予定になかったものを勧められても揺らいではならぬ…と肝に命じたはず、だったのに。自ら知りたくて話題を振ったグロスと口紅の違いから、口紅に重ねてつけてみますか?と甘い誘い。

じゃあ…とつけてみると、これこそがずっと理想としていたリップメイクだった。

 

なんだかみんな口紅にあれこれ重ねてつけるんだなあと思っていたけど、あの唇は口紅だけではないからこそのツヤで、女優さんのあの人や乃木坂のあの子はこの技を使っていたわけか…!とようやく方程式が解けた。

中央にリップグロスの方式、おそるべし。

それくらいにメイクの知識がないけれど、つけて鏡を見たときの嬉しさという感覚はとてもよくわかった。

 

プラムレッドに色づいた唇。

見ているだけで気分が上がる。唇に自分の意識が向くから、自然と口角も上がる。

口紅もグロスもチークも、オレンジ揃い。

嬉しくならないはずがない。

 

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自分に自信を持つのは容易くないし、容姿となれば自信のなさならいくらでも膨らむ。

でももうそれをやめた。出来るかぎりのことをして、機嫌良くいればいいやと思うようになった。あとは全力の、自己暗示。

吉澤嘉代子さんの曲を聴いていると、女性でいることの色鮮やかさを思い出す。めんどうな心模様も込みにして、ふわりふわりと生きているのはたのしいでしょと目の前をかすめてゆくたんぽぽの綿毛のよう。

「綺麗」を聴くと、可憐かつしなやかに逞ましい女性の世界観に惹きつけられて、街灯のあかりのなかスカートの裾をひるがえし歩く彼女の姿が目に浮かぶ。

 

硝子色の時間 封じこめて

私を綺麗だって思ってくれていたなら

いいな いいな