大阪ロマネスク巡りをしつつ、なんばの方に来たのだから、映画「味園ユニバース」の撮影地もいくつか見に行くことにした。今思えば、大阪の暑さのなか、なんてハードなスケジュールなのだろう。
グーグルマップでは、えびす橋のある道頓堀から歩いて8分。
全くわからない道を矢印に導かれるまま歩いて、なんだか全体的な雰囲気が独特だなと感じながらも、“ユニバース”の文字を見つけた。これ?これだ…!!と2段階で上がっていくテンション。
興奮でまず近づいてしまったから、ひと通りユニバースの縦の看板を撮り終えて、それから後ろに下がり、映画で何度も観たあの画角を探して何枚もシャッターを押した。
映画で映っているのは夜の味園ユニバース。真っ黒な空の中に煌々と光る赤と青の丸が印象的で、本当はそのままの景色を見たかったけど、昼間歩いてみてもわかる、夜にひとりでここに来てはまずい感。堂々としていられる人は平気かもしれないけど、あまりずっと居たい空気ではなかった。
大阪に来て、どの辺の通りがまずいか、近づかないほうがいいかは、肌で感じ取れるようになった。
そのままカスミの家と、あのたこ焼き屋さんを目指そうかと思ったけど、一瞬思い留まった。あれ、たこ焼き屋さんの営業開始は14時からだったような…と自分の時計を見ると、まだ12時。あぶない…勢いづいて向かってしまっていたら、空腹迷子になるところだった。
日差しも暑いし、ひと呼吸置こうと、大阪ロマネスク巡りのスポット「なんばパークス」で庭園を散歩して、お昼ごはんにして、あとはしばらく雑貨屋さんでも見て時間をつぶそうと頭の中で予定を立てた。イレギュラーな計算違いにも柔軟に対応できるようになったなと自分を少し褒めたくなった。
なんばパークスの外観を知らずにいるから、どれのことだかわからずしばらく迷って、迷ったーと思いながら歩いていたらそれっぽい建物にたどり着いた。
お昼時だからかキッチンカーが停まっていて、なんだろうと近づいてみると、丸山隆平さんも差し入れで食べていた「LUKE'S LOBSTER」というロブスターサンドのお店だった。
お友達に教えてもらって原宿で食べたお店だったから、ここで再会できるなんて!と思わずそれを買いたくなってしまったけど、いやここはちゃんと、なんばパークス内でごはんを食べたいから…と後ろ髪を引かれながらも通り過ぎた。
都内では列になっていたけど、この時は誰もいなくて待ち時間0分だったから、一個くらい…食べてもよかったかもしれない…
ショッピングモールの屋上に庭園があって、真ん中は吹き抜けになっている。
ビルなのに緑がフサフサと生い茂っているのがおもしろくて、想像していた以上に立派で綺麗なお庭だった。
木陰のなかにもベンチがあって、そこでお弁当を食べているひとがいたり、白シャツ姿のサラリーマンのひとたちがお昼休憩に出てきたり、高校生のカップルが仲良くデートしていたり。憩いの空気を横切ってすみません…と思いながら、気になった道を好きなように歩いて、気が向いたらベンチに座ってみて、だーれもいないなーとぼーっとして。
花を魅力的に撮る選手権したり
鳥が飛んでしまう前にピント合わせチャレンジしたり
ブルーの映画フィルムが背中についたような蝶々が目の前に飛んで来て、おおってなったり
苔みたいなへんな置物もあった
ひと通り歩いて、満足して、レストランのフロアに行ってどこでごはんを食べようかぐるぐる吟味した。落ち着けて、ある程度は長居しても許されそうな所。席の種類が豊富そうな大きめのカフェ「#702 CAFE&DINER」があった。
タコライスがあるのはいいなーと思って入ったけど、ランチメニューを見ていたら韓国味噌風味の鳥の唐揚げが美味しそうだったから、それにした。あとジンジャーエール。
午後のためにもモリモリ食べて、それでも最後は押し込む形だったけど、残さずに食べきった。
ノートを取り出して、リストにした大阪ロマネスク巡りのページに赤のペンで丸をつける。残りは観覧車だけになった。
あとはできれば、丸山隆平さんと安田章大さんが路上ライブをしていたらしい阪神百貨店への道も見られたら。
計画も確認できたし、なんばパークスのなかを歩いてみようとお会計をしてお店を出て、いろいろ見た。食品店のポップに「どこいこ!?で取り上げられました!」と書いてあって、さすが大阪…!!と感動した。
すごく綺麗なピクルス屋さんがあって、ピクルス!夏の疲れにばっちりじゃないか!と見事に足止めされて、いろいろあるなあどれがいいかなとあれこれ見比べた。「いずみピクルス」というお店だった。
フルーツのピクルスもあって、ピンクグレープフルーツやぶどうが入っているみたいで、こんなにカラフルになるんだなと見惚れてしまった。水茄子の入った縦長の瓶のピクルスを選んだ。大根と人参、プチトマトが入っているのが選ぶポイントだった。あまりに見た目が気に入って、店員さんに写真撮ってもいいですか?と許可をもらって、待ち受けにもしようとわくわくしながら写真に撮った。
そうこうしていると、そろそろ時間に。
なんばパークスからカスミの家になった場所まで、徒歩9分。線路沿いにしばらく歩いて、高架下にアメリカンテイストなおしゃれなお店が並んでいるのを見た。
学校があって、普通の住宅地があって、本当にこの辺りで映画を撮っていたのだろうかと思ったけど、信号を渡って真っ直ぐ進んでいたら、右手側に。カスミの家が。
大阪の日常が、ただ静かに流れていた。
ここで、この小さな場所で「味園ユニバース」は作られた。ポチ男がここで生きていた時間が、映画のなかには永遠になっているんだと思うと、信じられないような、でも確かに本当なんだなと感じられる実感とがせわしなかった。
「ライブは?!」とカスミが言った夜のなか響く声も、手を震わせて歩き去ってしまうポチ男の背中も、鮮明に蘇るようだった。
すば散歩ではここでたこ焼きを食べていたなぁとなんてことない柵を眺めて思ったりするのも、渋谷すばるさんの存在があまりにも自分のなかでくっきりと居場所を作っているからだなと思った。
カスミの家の近くにある、映画撮影中も皆さんで食べたという名前のないたこ焼き屋さん。たこ焼き屋さんがお店を開いているかは運だと心構えはしていたけど、行った時間には開店の気配が無かった。そっかー…そこをなんとか、なんて思ってもしょうがないから、いつかのお楽しみだなーと思い残しをひとつ置いて行くことにした。
撮影地といっても普段は人様のお家だから、さっと、遠くから眺めさせてもらって、という気持ちで、長居はせずに後にした。
あれだけ何度も観ていた景色のなかに、実際に入ってしまったんだと、不思議な感覚はしばらくつづいた。