たねも仕掛けもあるけれど −「君の瞳に恋してない」UNISON SQUARE GARDEN

 

開放感のあるトランペットの音が鳴り響く。弾むリズムにベースの音が聴こえる。

UNISON SQUARE GARDENの新しいアルバム「MODE MODE MODE」に収録されている曲「君の瞳に恋してない」は、ワクワクとざわめきが、マーブル模様のように混ざり合い、グルグルと円を描いて、そのループから抜け出させてはくれない。

 

トランペットやホーンなどの管楽器が活き活きと曲の中で暴れる感覚は「mix juiceのいうとおり」に近い感覚で、スカサウンドの要素もある。

裏打ちのリズムで聴こえるエレキギターの音が跳ねる気分を助長させて、そのテンポにこぼれることなくハマる言葉の気持ち良さ。

ハイトーンだけど、可愛らしさも爽やかさもバランス良く共存している斎藤さんの声が、曲の世界観にこれ以上ないほどしっくりきていて完璧。この曲を歌うのは、斎藤さんしかいない。

 

UNISON SQUARE GARDEN(ユニゾンスクエアガーデン)の曲はアニメのテーマ曲になっていることも多い。テーマ曲にある独特の高揚感をしっかりと形にしながら、バンドとしてのスタイリッシュさが共存している。

そして歌詞が楽しい。トリッキーで掴み所のない、どこか飄々とした温度感はUNISON SQUARE GARDENの魅力だと思う。

曲としてさらっと聴きつつも、言葉として見ると、様々な意味で取れる歌詞。その不思議さにガシッと心掴まれて、何となくで再生したはずのMVを気づけば何度も見ていた。

歌詞の魅力はもちろんのこと、「君の瞳に恋してない」はMVも楽しい。UNISON SQUARE GARDENの曲のなかでは、「mix juceのいうとおり」と「君の瞳に恋してない」が断トツで好きだ。

躍動感あふれているベースの田淵さんは作曲も作詞もしていて、その才能はとてつもない。細身の黒のスーツを着て、ボーカルの斎藤さんがギターを弾く姿は最高にかっこいい。「君の瞳に恋してない」はドラムの鈴木さんのダンディーな格好良さも光るMVだと思う。

 

MVには、遠近法やストップモーション、スタジオを移動することでセット転換にする演出も使われていて、映像のトリックが目白押しでおもしろい。

全体像が見えない面白さと、所々ステージの境目やカメラ、証明、セットの仕掛けなどが見える面白さが交互にある。その上で歌詞を聴くと、「甘い一瞬に騙されて?」という歌詞にも意味深さを感じられて、すごいなと感動した。

恋のことでもあり、観せる側と観る側、作り出されるすべてのものに重なる歌詞のような気がしている。気のせいかもしれないけれど、SNSや、そういうところでの距離感の話にも当てはまると感じている。

  

せめて君ぐらいの声はちゃんと聴こえるように

嵐の中濡れるくらい構わないからバスタオルは任せた 

せめて君ぐらいの声はちゃんと聴こえるように」という表現から思い浮かぶのは、その声がかき消されそうなほどの喧騒の中にいる状況で、いっそ耳を塞いでしまえば聴こえなくなるかもしれないけれど、せめて、君の声は聴こえる場所に居たいという感情。

何を信じて、どの声を聞くか。見失いたくないこと、見失ってほしくないこと。沢山の声が聞こえてくる中に自分が立った時、私は誰の声が聴きたいだろうと思った。

 

雨の中濡れるくらい構わないからバスタオルは任せた」という歌詞。

雨をよける傘になってかばってよ、ではなく、雨の中に飛び込んで行くからバスタオルは任せたと言う、その心意気に惚れた。颯爽と走って行く背中を見送る気分にすっかりなってしまう。

歌い方も、バスタオルの発音の“オ”に力を入れているところがワイルドさを表現していて良い。ボクシングのリングに投げ込まれるタオルのようなイメージで、勇ましく飛び込んで行くけど、ピンチの時は助けてねという可愛らしさも感じられる。

 

そして、すごい威力を持つのが、この歌詞。

甘い一瞬に騙されて? 

はい!と大きな声で元気よく応えたくなるほど、この歌詞はすごい。そのクエスチョンマークはずるい。

この甘さは一瞬だとお互いに分かっていて、それを承知の上で、「甘い一瞬に騙されて?」と問いかけられたら、その儚さも込みで愛してしまうしかない。ただ、それはエンターテイメントにおいての話に限るけれど。

MVでの“騙されて?”の時の、斎藤さんの上がる口角と流し目が完璧で、画角を左から右上になめるように動く導線も美しかった。

 

 

小さじ一杯のカラクリが生み出せるもの

ちょっと信じてみてはくれませんか 保証がないのは本当だけど

僕の手握っていいから  

 

どうしようもないほどワクワクさせられる感覚も、その時間の中にずっとは居られない切なさも、曲の最後に来るこの歌詞にすべて込められていると思う。

「保証がないのは本当だけど」という言葉に現実を見て少し不安になった後に、「僕の手握っていいから」と来る言葉の威力。MVで映る、その言葉のあとの微笑み。

曲を聴いている4分間の間に、ジェットコースターもびっくりなアップダウンを繰り返し、重力に振り回されて、最後にグンッと正面を向かされる感じ、自分の好きの対象に照らし合わせて聴くとやっぱり、そりゃあ離れられるわけないよなと納得してしまう。

ボーカルの斎藤さんは、ふとした瞬間、とてつもなく甘い声で歌う。 

メロンソーダの上に乗ったバニラアイスみたいに、シュワッと駆け抜ける爽やかな炭酸と甘く溶けていくアイスのような相性でマッチする。

 

たねも仕掛けもあるけれど、それでもこの瞬間、騙されてくれますか?

そう問いかけられているような気になる「君の瞳に恋してない」は、抜け出せそうにないエンターテイメントの引力の世界で、自分にとってテーマソングかもしれない。