鋭利な乙女心 -SHISHAMOの魅力

 

可愛さのなかに漂う、気だるさの魅力。

SHISHAMOの曲を聴いていて惹きつけられたのは、女の子の持つグッと深い色っぽさを感じたからだった。キュートでか弱いだけではない、リアルな女の子の思考回路を感じる歌詞と、不機嫌さや面倒くささのような表情を感じられる歌声に、ドキッとした。

 

ボーカルの宮崎朝子さん、ベースの松岡彩さん、ドラムの吉川美冴貴さんの3人で組まれたバンド。

吉川美冴貴さんが楽しそうにドラムを叩いているのを見るのが好きで、バスドラムの表面に描かれた3尾のししゃもがいつ見ても可愛い。美しく記号化された立ち位置、ボーカル、ベース、ドラムというトライアングルの素晴らしさがある。

 

曲のなかでも、 

「すれちがいのデート」

「きっとあの漫画のせい」

「メトロ」

この3曲が特にドキッとした。今回はそのポイントについて考える。

 

 

「すれちがいのデート」

朝までゲームをしていてデートに遅れてくる彼を、なんだかんだ許して待つ彼女。

デートに遅れたけど、それでも許してくれる彼女のことを好きな彼。

弾むギターのリズムに、ほのぼのとした休日の朝を思い描いて、代わる代わる“彼女”と“彼”の心情を追いかける。ところが二人の展開は思いもしない方向に。でも“思いもしない”のは、彼が見ていた景色の方で、彼女の視点で見ていたら行先は読めたような気もする。

「かわいいやつ」と思っている彼と、「情けないなぁ」と思っている彼女。その心のうちが通じ合うことはなく、大サビへきて

好きなだけでは うまくはいかない

吐き出せなかったものがたくさん

チリになって詰まるんだ

ここから先へは二人じゃ いけないかも 

ここから風向きが変わり始める。

付き合ってから3年は経っているのだろうなあと思うような距離感。落ち着く二人の間の空気はメリットでありリスクで、表裏一体。

「ここから先へは二人じゃ いけないかも」と、さらっと言う声にドキッとさせられるのは、彼の知らないところで彼女が心に決めた、この恋の終わりを見てしまった気がしたからかもしれない。ふとした拍子に顔を出す、淡々とした冷静さは誰の中にも確かにあると思う。

彼のなかでノープランなのは多分デートだけじゃなく、二人のこれからのこともだったのだなと歌詞から感じた。きっと彼は、どうして振られたのかを分からない。

“いつもと同じ”がズレ始める、切ない距離感がヒリヒリと伝わる。これからの道を行くのは彼とではないと、先に気づいた彼女の冷静さはきっとリアルだ。

 

 

「きっとあの漫画のせい」

 歌い出しから淡々と投げやりな感情がそのままに。

もうなにもしたくなくなった

気力が全部溶け出した

気力が無くなるではなくて溶け出したと表現するところに、止めようがなく流れ出ていく様子が想像できる。

がなりとも違うドスの効かせ方が、可愛い声のなかに大人の女性をのぞかせて、行ったり来たりな可愛さに翻弄される。

 

こんなに気分が落ち込むのは

別に、君が煮え切らないからじゃない

うぬぼれないでよ

ボーカルの宮崎朝子さんの歌い方で特に好きなのが、サビ前のフレーズ。「うぬぼれないでよ」の部分と、そのあとにあるもう一つの部分。

今も私があなたを思って泣いてるなんて思うの?

笑わせないでよ

微かに笑い混じりに言う「笑わせないでよ」がマイナス100度の冷たさで、ゾクッとする。

感情が怒りへと変わった時の女の子の強さはすごい。怒りすぎて笑っちゃう感じがリアルだった。感情的にわめいたりはしない、平行な感情にリアリティがある。

 

 

「メトロ」

宮崎朝子さんの歌は、発する声だけでなく息づかいまでストーリーにする。

息を吸う音、吐く音。歌う時に生じるブレスではなく、意識的に置かれる呼吸が印象的に耳に残って、言葉よりも深い感情の動きを表現している。

その表現力を確かに感じたのが「メトロ」という曲。

 

人の波に流され 降りてしまったその駅は

誰にも見つからない二人の待ち合わせ場所

ホームに立ったら 息ができない 

「息ができない」のあとにスゥッと息を吸う音がする。

冷えて乾いたメトロの空気を、口から胸まで吸い込んだ音がして、その呼吸ひとつで彼女が立っているメトロのホームの景色が目の前に広がる。

低音で歌う時の宮崎朝子さんの声はすごく色っぽくて、かっこいい。波状のように広がる揺らぎが繊細で、ポジティブばかりではない感情を、黒くなりすぎず、でもそこにあるままの温度で伝えることができる表現力が素敵だと思う。

 

 

SHISHAMOの曲を聴いていて思い浮かんだのは、ヒールを履いて完璧に着飾った女の子ではなくて、スニーカーに大きめのリュックを合わせるような女の子。

頑張った可愛さというよりも、普段の何気ない拍子にある可愛さだと思う。

「好き好き!」という曲では、歌詞カードには載らない「いえーい」というフレーズがある。絶妙に肩の抜けたニュアンスが、あからさまにテンションが上がるわけではないけど、何かおどけたくなる感じ、という浮遊感を表していてその等身大が可愛いなと思う。

 

SHISHAMOの曲は、人であって、女の子。という感じがするから好きだ。

女の子であって、人。ではないところが。

歌声と歌詞に見え隠れする鋭利な乙女心は、鋭さだけではない本音と強がりのバランス。曲の可愛さだけではないそんな魅力に心惹かれている。