好きな洋楽は?と聞かれて一番に思い浮かぶのは
「Can't take my eyes off you」
日本語版タイトルは「君の瞳に恋してる」しっくりくる訳し方はこれ以外にないと思う。メロディーもサビの盛り上がりも、歌詞もタイトルも、そのすべてが好きで仕方ない。
惹かれるのは、和訳がなくてもその英語から溢れて伝わる、切実な胸の内。
“Fall in love”では足りない“Into you”レベルのベタ惚れ感。洋楽ならではの、ベタ惚れさえ隠さないオープンさ。しかもその弱々しさが、むしろ一枚上手な余裕にさえ見えてかっこいい。
このニュアンスを関ジャニ∞が歌うと「イッツマイソウル」になるのかなと思う。そして今の関ジャニ∞なら「Street Blues」のイメージに近い。
ポピュラーで広く知られている曲だけど、シンプルで真っ直ぐだからこそ、実は訳すことが難しい曲なのではと感じている。
これまでいくつもの日本語訳がついてきた曲だけど、この曲の温度感をそのままで表すことは簡単ではない気がしていて、ただ英語の通りに和訳してしまうとニュアンスがわずかに違う感じがする。英語表現だからこその言葉選びがそこにあり、日本語のわびさびなどが英語に訳しずらいのと同じように、この曲の歌詞に出てくる言葉は日本語に言い換えることが難しいと思う。意味は伝えられても、意図が伝わりずらいような。
映画「SING」の日本語歌詞訳をしていた、いしわたり淳治さんの訳詞を読んで、洋楽をこんなに繊細に日本語へと置き換える人がいるんだと感動して、いしわたり淳治さんの訳す「Can't take my eyes off you」をいつか聴きたいと思った。
インパクトがあるけれど、曲は約3分でわりと短い。「Can't take my eyes off you」はシンプルなようで、思うよりもさらに奥深い曲だと感じた。
日本でよく聴くのは、ディスコ版のアレンジがされている1982年「ボーイズ・タウン・ギャング」 という方の女性ボーカル。
オリジナルは1967年で「フランキー・ヴァリ」という男性ボーカルで、「フォー・シーズンズ」という男性4人グループのなかのメンバー、フランキー・ヴァリがソロで出した曲だった。
ディスコ版もいいけれど、フランキー・ヴァリの歌う「Can't take my eyes off you」はスローテンポでしっとりと歌い上げていて、この曲はバラードとして歌われるとグッと深みを増している。曲を知ったきっかけは女性ボーカルだったけど、自分にとっての曲のイメージは男性ボーカルになった。
有名だからこそ、様々なアーティストのカバーで歌われ尽くしている印象もあって、アレンジが強めだったり個性が濃いものも多い。個人的には、明るくはっちゃけているアレンジよりも少しシリアスさのある空気感が好きだと思った。それぞれ好みなので、自分の聴きたいベストな「Can't take my eyes off you」を探すことも楽しみのひとつだと思う。
ディスコ版のアレンジでは、Little Gree Monsterの歌っていたニュアンスが自分にとっての理想に近かった。アルバム「Joyful Monster」通常盤に収録されている。
男性ボーカルでは、NHKの少年倶楽部というジャニーズの番組で披露された、マリウス葉さん・ジェシーさん・カウアンさん・増田さんの4人で歌っていたパフォーマンスが素敵だった。ハーフの4人で、曲の世界観を照れなくしっかりと表現していて、歌声もぴったりだった。
歌番組で表示される日本語訳にも個性が様々あって、この曲が歌われる時はいつも注目して見る。
歯の浮くようなセリフもさらっと言われると成立してしまうマジック。
そして恋に浮かれる気分だけではなく、どこか切なげな哀愁がある。
You'd be like heaven to touch
At long last love has arrived
“like heaven to touch”という表現で、天にさえ手が届きそうな、という言い回しを使うところも、“At long~”で“arrived”という【たどり着く】の過去形を使って、愛にたどり着いたと表すところも、英文の美しさに心を掴まれる。比喩表現は日本語にも様々あるけれど、英語だからこその例え方があり、その魅力に気づくと洋楽の歌詞カードを見るのも楽しくなる。
The sight of you leaves me weak
というフレーズからの流れで
But if feel like I feel
に繋がる詞が、特に曲のなかで印象深い。
“feel like I feel”の表現が良い。もし、同じことを感じていたら…というニュアンスの描かれ方が繊細で、自信ありげな強気な感じというよりも、儚くて、そっと触れなければパリンと割れてしまいそうな氷のシャボン玉のようだと思う。
熱烈で確かな意思の中にふと垣間見える、弱さが絶妙だった。
“But if feel like I feel”に続く詞は、
Please let me know that is real
となっていて、この2行のフレーズ。ここが最高に素晴らしいと思う。
余裕あり気で紳士的な言い回しをするなら、Could you~などの言い方もあると思うけれど、ここで“Please”と願う切実さ。丁寧語でもないことから、心を打ち明けている心境を読み取れる気がする。
そして、
You're just too good to be true
I can't take my eyes off you
と続くオチの美しさ。一編の小説を読んでいるかのような波と揺らぎがある。
歌い出しでも歌われる同じフレーズを、ここへきて乗せるメロディーを変えて、低音の下っていくメロディーで落ち着くムードに持っていくところは巧みな緩急だと感じた。
一度落ち着いたムードの後に、“I love you baby”でグッと引き上げられるサビがきて、恋の有頂天と急降下の紙一重で揺れ動く心情そのもののような曲の構成に、心奪われずにはいられない。
この曲の詞のなかで好きなのは
Trust in me when I say
というフレーズで、特に“Trust”という言葉。【信頼】という意味のこの言葉は、ディズニーの映画「アラジン」でも“Trust me!”というセリフで使われていて、アラジンがためらうジャスミンに手を差し伸べながら言う言葉。この曲でもこの単語が登場して、僕の言葉を信じて、というような意味合いを持っているところにグッとくる。
何度も耳にして、すでに無意識のうちにイメージを持っているかもしれないヒットソングも、まだちゃんと一対一で出会っているわけではない。昨日出た新曲のように聴いてみると、自分で感じた全く新しいイメージを曲に持つことができて楽しいということを知った。
年代も国も境なく、心揺さぶられるものはあると音楽に触れるたびに思う。
今回、「Can't take my eyes off you」について知るために、オリジナル曲を歌っていたフランキー・ヴァリに繋がる「フォー・シーズンズ」を調べて、映画「ジャージー・ボーイズ」を観た。
ここぞというところで流れてくる「Can't take my eyes off you」は、待ってましたと言いたくなるほど待ち焦がれた、懐かしくも新しいあのメロディー。
聴けばたちまち胸がドキドキしてくる、この曲はそんな魅力に溢れている。