甘いお菓子に隠されたスパイス −関ジャニ∞「Sweet Parade」

 

ミステリアスなメロディーの後に聞こえてくる丸山隆平さんの声は、さながらストーリーテラーのようで。不思議な世界へと誘ってくれる。

 

昨年リリースされたシングル「応答セヨ」通常盤に収録されている「Sweet Parade」

個人的に、どんな些細なホラーにも全力で恐怖を感じる体質なために、曲のテーマを聞いた時はあまり繰り返し聴くことは無いかもしれないと思っていた。

しかし「Sweet Parade」は怖さや不思議な空気だけではない世界観の幅が歌詞によって表現されていて、ポップさと哲学的な思考がひとつの曲の中で溶け合うような、ハロウィンというテーマだけでは括れない魅力を持っている。

歌い出しにくる、かすれ気味の丸山さんの声は新鮮で、これまでの歌い方とも「応答セヨ」の歌い方とも違う印象を持った。世界観の強い曲は状況を理解して引き込まれるまでに流れが必要になるけれど、始まりのワンフレーズで曲の温度と空気感に一瞬にして包まれた。

 

そして渋谷すばるさんと錦戸亮さんのメインボーカルは「LIFE~目の前の向こうへ~」や「NOROSHI」の勇ましいイメージから一転して、「Sweet Parade」の二人の声は和やかで甘さのある声に。

「Sweet Parade」を聴いて初めに感じたのは、音程が難しいのではということだった。 特に渋谷さんが歌っているパートは、メロディーに沿って音が決まっているというよりも、独特の音回しになっていて、“知っていればいいさ”の音程や“散らばっていたんだ”の部分は、メロディーの流れ的には逆らうような音程になっている印象で、当たりの音を掴むのが難しそうだと思った。多分、カラオケで歌おうとすると探り探りで歌ってしまいたくなる音程のイメージ。

 

 

甘くて苦い人生に とびっきり甘いお菓子をちょうだい

ポップで、可愛くて、キラキラしているのに、このワンフレーズがとびきり切なくほろ苦い。

しあわせに満ちた世界観でも成立しそうなこの曲で、甘いだけじゃない苦さも知った上での視点を取り入れているところに心を掴まれた。甘いだけでも苦いだけでもなく、“甘くて苦い人生に”という言葉で表現するところがいい。そして、“とびっきり甘いお菓子をちょうだい”と続く歌詞。小さい子供が可愛くワガママを言うようなニュアンスにキュンときてしまう。

関ジャニ∞がこの歌詞を歌うというところにも、大きなときめき要素がある。

 

そして2番で登場する、

これは魔法も敵わない スペシャルな奇跡だね

“魔法も敵わない スペシャルな奇跡”という言葉に、とてつもなく引きつけられた。魔法を奇跡が上回って、しかもスペシャルな奇跡。なんてワクワクする言葉なんだと思った。

そしてその言葉を裏付けするように、

ファンタジーみたいだけど 夢じゃない世界が

見えなくても どこかに そっと隠されているさ

という歌詞が2番で続く。

確かにあるのか、何もないのか。知りたいことに限って目には見えない。 わけもなく期待を抱いてワクワクすることを小さな頃はできていたはずなのに、段々と薄れていく期待の持ち方を、再び思い出させてくれるような温かさがある。

きっとあるではなく、“どこかに そっと隠されている”という表現に、探さなければ見つからないという意味合いがあるように感じて、それがいい。

起こりえないと決めてかかるよりも、こんなことが起こるかもしれない、あんなことが起こるかもしれないと想像を膨らませていくほうが楽しいはずと、「Sweet Parade」を聴いていると思うことができる。

 

 

色とりどりのチョコレート 少し甘酸っぱいレモンのタルト

優しいバニラの香るシュークリーム

“色とりどりのチョコレート”のパートを歌うのは丸山隆平さん。“少し甘酸っぱいレモンのタルト”と歌うのは安田章大さん。“優しいバニラの香るシュークリーム”と歌うのは錦戸亮さん。 

ここの、ここのキュートさに胸打たれた人が全国どれだけいるかわからない。可愛い語感をこれでもかというほど盛り合わせて、ワクワクの止まらない感覚は、ホテルのスイーツバイキングに来たような。ケーキがちょこんといくつも乗っているお皿を両手で持っている時の感覚に近い。

 

甘さのなかに爽やかなハイトーンで通る丸山さんの声に、可愛らしさのニュアンスを込めたらピカイチな安田さんの声。そして、ここぞとばかりに発揮された錦戸さんのシュガーボイス。

3人ともがそれぞれの甘さでもって、立続けに歌われるこの歌詞が本当に素晴らしい。錦戸さんは短いパートの中でいくつも歌い方のニュアンスを分けていて、シュークリームというところを“クリーム”と流さないで、“い”を挟んで“くりーいむ”と発音していて、その“い”の音の跳ね上げ方と、“ム”の後ろに小さい“う”が付きそうなくらいにお砂糖たっぷりな歌い方をする。

ハスキーさを活かした歌い方で「Tokyoholic」や関ジャムセッションの「監獄ロック」を歌ったと思えば、安田さんとのユニット曲「アイスクリーム」や今回の「Sweet Parade」のように、おかあさんといっしょに出られるくらいの可愛さで歌うこともできる。錦戸さんの歌声の幅広さを感じた。

そう考えると、丸山さんは「パンぱんだ」安田さんは「Kicyu」錦戸さんは「アイスクリーム」で、それぞれに子供向けにもなるような代表曲を持っていると思った。

 

可愛らしければいいという訳ではなく、チョコレート、レモンのタルト、バニラの香るシュークリームと、このセレクトが完璧。マカロンやショートケーキでもハマることはハマるかもしれないけれど、フォルムそのものの可愛さだけでなく、苦み、酸っぱさ、甘さと、味覚をイメージしてもパターンがちゃんと別れていて、歌詞の世界観に合っている。

以前テレビで、お菓子の商品名を決める際の要点を社員さんが話していて、重要なのは3文字であることだと言っていた。オレオもビスコも3文字。頭に残り覚えやすく、可愛いとイメージを持つのは3文字という法則があるといった話だった。

チョコレートとタルトで“ト”の語感を重ねて、“レモン”も“タルト”も“バニラ”も3文字。これこそ、甘さと可愛さの黄金比なのかもしれない。

 

 

ポップで可愛い世界観の中に、“甘くて苦い人生に”という言葉があることで、生まれる奥深さがある。聴いていて楽しい曲としての一面と、考えて楽しい曲としての一面とが合わさって、何度も聴きたい一曲になった。

この曲がバンド曲として作られたことは意外だった。これまでバンドで演奏してきた曲とも違う曲の雰囲気は、基盤となるスタイルを積み重ねてきた今の関ジャニ∞だからこそ魅せることのできるスタイルなのかもしれない。

かっこいいバンド曲から、かわいいバンド曲までセットリストに入るようになったら、いよいよもう関ジャニ∞の魅力から離れられない。