これから出会えるあなたを思う。-関ジャニ∞「奇跡の人」

 

ひょっとしてもう側に居て 気づいていないだけの 君に会いたい

 

たった一行の歌詞でこんなに心を掴まれたことはない。

人と出会うことについて、思い描いては胸に抱くその期待と待ち遠しさを、完璧に言い表している言葉だと思った。

 

9月6日にリリースされた、関ジャニ∞のシングル「奇跡の人」は、錦戸亮さんと松岡茉優さんが主演のドラマ「ウチの夫は仕事ができない」の主題歌にもなっている。さだまさしさんの作詞作曲で、これも関ジャムでの出会いがきっかけになっていると言える。錦戸亮さんのアイデアから依頼をすることになったこの曲は、さだまさしさんからのアンケートにメンバーが答える形で、理想の相手と建前の理想を書き出したものを元に作詞されている。

初めて曲の全体を聴いた時、おお…攻めてるなと思った。共感できるできないではなく、様々な思いが聴き手に生じるだろうなと感じたからだった。けれど、この曲にしかない良さがある。

 

どんな状況のなかでも、真面目に生きるというのは時に虚しくてやるせない思いをすることもある。そんな埋もれてしまいがちな、“ちゃんと”をすくい上げている歌詞が素敵だと思った。

ああ なんて切ないんだろ

どうしてかなと思うことに対して、“切ない”と言い表しているところが本当に好きで、誰も見ていないような場所で日々真面目にいたとしても報われるとは限らないけど、誰か一人でもそんなふうに思ってくれている人がもし居たなら心強いだろうなと思った。

 

言葉遣いと礼儀だけは ちゃんとしとこうよ 

という歌詞の渋谷すばるさんの歌い方は優しくて、怒るのではなく諭すような声色が暖かかった。「奇跡の人」での渋谷すばるさんの歌い方がとても素敵で、感情は込めすぎず、でも淡々と丁寧に歌うからこそ思いが乗って聴こえる。落ち着いた包容力のある声だった。

 

6分間ある曲のなかで最も好きなのは曲のポイントごとの最後にくる言葉とメロディーだけど、それ以外にも好きなところがある。

見てくればかりが魅力じゃないよ 心の錦が大事だよ

という言葉。“心の錦”という表現がいいなと思った。錦戸さんがキャンジャニの自己紹介の時に言っていた、“故郷に錦を飾ること”というフレーズもとても好きで、錦という言葉に込められる意味の深さに心惹かれた。

錦という言葉を調べると、『人のものへの美称・尊称として用いる』とある。または『いろいろな模様を織り出した厚地の美しい絹織物。色彩豊かで美しいものを例えて言う語』としての意味もあるようだった。いずれにしても、日本語だからこその美しい言葉だなと思った。錦戸さんの名前を忍ばせるという意味もあるだろうけど、大切にするべきは見てくればかりじゃなく見えない心にこそあるというこの歌詞がいいなと思った。

もう一つ好きなのは、

冷たい人とは暮らせない 心の温度の話やで

というところ。“心の温度の話やで”と付け加えるところに優しさがあるなと思う。前半の言葉だけでも読み取ることはできるけれど、こういう意味だよと説明してくれるところに温かみを感じる。そして心の錦と同じように心の温度の話をするところが、わかりやすい外見や服装の好みではなく概念の話をしている感じがして、それは恋人に限らずどんな人と関わる時でも大切にしたいところだと思った。

どこまでがメンバーの言葉なのかはわからないけど、人の本質をどういうふうに考えているのかなというところを少し感じられたことはうれしかった。

 

確かに歌詞の前半のあれもこれもと上がり続けるハードルを見ると、そんなうまい話…と思うかもしれない。けれど、曲のタイトルが「奇跡の人」という時点で、きっと全てがかなうなんて思ってはいないのだろうなと感じた。

運命や理想という言葉ではなく“奇跡”なのは、その出会いがどれだけ貴重なことかわかっているからで、“全てをかなえてくれる理想通りの人が現れてほしい”ではなくて、“いつか出会えるあなたを思って思いを巡らせる ”その気持ちを歌っている曲なのかなと思う。

理想を膨らませるときは男の子も女の子も、髪が長い子がいいとか背が高い人がいいとか、優しい人がいい明るい人がいいと話が弾むけど、出会ってしまったら結局は、それまで話していたことは関係なくなってしまう。

俺好い奴になるからな

という歌詞も、“良い”ではなく“好い”を選んでいるところが、良い悪いというより“好ましい”という意味で、あなたに好かれるような自分になるからと伝えたい心情を表しているのかなと思った。

この曲に微笑ましさがあるのは、こんなところもあんなところもと連ねられる理想があるからこそだと感じる。これがもし、悟りに悟った男性像で、何も求めん全部どんとこいみたいな歌詞だったら、お、おう…となったかなと思う。まだ無邪気に相手への期待は浮かぶけれど、大切なのはこういうことだと思うんだ、というその加減が、30代の関ジャニ∞が歌う曲としてぴったりくるのではないかなと思った。

 

「奇跡の人」は聴く年代や人生経験によって、これからを思い描いていたり、具体的に思い浮かぶ人がいたりと、人によって違った角度で聴こえるのかもしれないと思うからこそ、今の自分が見ているこの角度は大切に覚えていたいなと思った。また5年10年経って聴く「奇跡の人」は違った景色なのかもしれない。

 

ちゃんと結婚できるんか

ま、出来たら奇跡やなあ 

というところの、“まあ できたら奇跡やなあ”を聴くと泣きそうになるのは、ほんとにそんなことが起きるのかと話半分にしながら、でも感慨深そうに歌う歌声が切ないからで、そこへさらに自分自身の心境も重なるからかもしれない。

奇跡の相手に出会えるんやろか

ああ それはほんまやなー

そして“ああ それはほんまやなあ”のところは、奇跡やなあのところとニュアンスが変わって、全力の共感になるのがまた、どうにも胸が熱くなる。

 

 

歌詞の最後の方にやってくる、

奇跡の人と暮らせたなら

という言葉に胸を打たれるのはどうしてかわからないけど、愛情の先に求めるのは暮らしなのだなということを6分間の曲のなかで自然と思うことができたからこそ、この言葉がしみるのかもしれない。

 

 

これから出会う人のことを考えるのは楽しい。

この先で出会うけど、自分も相手もまだそれを知らなくて、もしかすると遠く離れた場所で、それかすぐ近くに。もし近くに居たとしても、意識が向いていなければ出会ったことにはなっていなくて、沢山の人と日々すれ違いながら、ある時タイミングがきて、それぞれの人生に関わる瞬間がある。

そんなことを想像するのが楽しい。これから自分と出会ってくれる人のことを考えると、そのために生きていこうと思うほど。

だから、関ジャニ∞がこういうテーマで曲を歌ってくれたことが本当に嬉しかった。

此の世のどこかに 生まれてるはずの 君に会いたい 

これから出会う人はきっともう生まれていて、年齢が重なれば、出会うことができる年代は自ずと決まってくる。切ないことでもあるけれど、同じ時代を生きているというのはきっとそういうことで、時代が違えば出会えなかった人と今自分がここにいるおかげで出会えていると思うと、周りにいる人にも好きだと思えるものにも今の自分で出会えてよかったと思う。

 

「奇跡の人」は、朝の寝起きで聴いても電車の中で聴いても、その時ごとのシチュエーションに驚くほどしっくりくる。関ジャニ∞の曲のなかにこうして、ゆったりと聴くことができる曲ができたことが嬉しかった。

街中の人の多い中で聴くと、ドラマエンディングのつかポン気分でさらにワクワクできるので、これはおすすめしたい。

映像に音源を重ねるのではなく、その場で歌った音が収録されているMVも、レコーディング風景を見られるメイキングも含めて楽しくて、ジャケット写真も期間限定盤がとくによかった。初回盤の手を繋いでいる写真がどちらの服装もシャツにジーンズでシンプルなのは、ステレオタイプの男性女性像に捉われず、親子や友達としても見ることができるようになっているのかなと思った。