穏やかさとパワフルさを持ち合わせた半崎美子さんの歌声

 

初めて半崎美子さんの歌を聴いたのは、2013年のことだった。

父と行ったショッピングモールで、ライブが行われるというアナウンスを聞き、見に行こうかと大広場の石段に座って、歌を聴いた。

パフォーマンスを見たり、アーティストの歌を聴くことが好きで、出掛けるとよく立ち止まって見ることはあったけど、始まるのを待って、そして最後まで聴いていたのはその時が初めてだった。

「希望の桜」リリース記念で行われていたイベントで、ポスターの優しく鮮やかな桜色と半崎美子さんの横顔の写真がとても印象に残っている。

 

そのショッピングモールで初めて、半崎美子さんの歌声を聴いた。

「希望の桜」を聴いた時、言葉にできず一人で抱えていた感情をすっとすくい上げられたような気持ちになった。

十代だった私は、押しつぶされそうな不安と一人で戦っていて、まだ殻の中にいた。「希望の桜」の歌詞は、自分でもどうしてなのか分からないまま傷ついていた心に、浸透していった。 

あなたの心がそこにある限り

必ず笑える日が来る

誰にも奪えないその心に

また同じ景色を呼び戻そう

自暴自棄な心境を、そういう感情の時もあると肯定できたのも、それでもきっと抜け出せる日が来ると思えたのも、この歌をあの時に聴いたからだった。

歌声を聴いて、こんなに包容力のある声があるだろうかと思った。綺麗な声で綺麗な歌を聴いても心は動くかもしれないけれど、半崎美子さんの歌声は、痛みを知っている声のような気がした。

「希望の桜」はアップダウンの激しい歌ではなくて、序盤は特に抑えて歌う部分が多い。けれどその抑えた声が耳に残る。声が泣いていて、歌に溢れるほどの思いが込められているから心を揺さぶられるのだと感じた。

抑えて歌うことができるのは歌唱力がしっかりと築かれているからで、きっと洋楽のようなソウルフルな楽曲も似合う声だろうなと思いながら見ていた。低音のハスキーさのある落ち着いた声色が、とても印象的で好きだなと思った。

 

ライブが終わって、CD販売があった。

その頃の私はとにかく引っ込み思案で、自らそんなコミニュケーションに向かうようなタイプでは決してなかった。

でも、この歌のCDが欲しいと思った。お買い物に行くからと持っていたお小遣いを使ってでもCDを持って帰りたかった。列に並び、自分の番が来た。

さっきまで歌を聴いていた人がすぐそこにいて、目を見てお話しをできるなんて、緊張して仕方がなかった。緊張のあまり何を話したかは覚えていない。どちらかというと父が色々話していて、私はまた父の後ろという感じだったようにも思う。

それでも、まっすぐに半崎美子さんが向かい合ってこちらを見ていてくれていたこと、会話に慣れていない私の話を聞こうとしてくれていた景色は今も覚えている。あの時の写真が今でもケータイには入っていて、それは私の宝物になった。

最近、部屋を整理していたら、当時のフライヤーとイベント案内がちゃんとファイルに入って保存してあったのを見つけた。

 

HMV限定シングルだったらしい「希望の桜」のCDには、「不等号」と「おいていかないで」という曲も収録されていた。

「不等号」が私はすごく好きで、歌詞に出てくる、全く素直じゃない彼女の心の声が好きだった。

この「不等号」という曲での歌声は、「希望の桜」などの穏やかな印象から変化して、パワフルでスピード感のある歌声になっているところも好きなポイントだった。

ipodにも取り込んで、これまでも曲は聴いていて、特に「不等号」には何度ふがいない自分を励まされていたか分からない。また上手く言えなかった…本心を抑え取り繕ってしまった…と後悔するたびに、この歌を聴いて、なにくそー!と思っていた。

 

自分にとっての半崎美子さんとの出会いから9年が経ち、ふと立ち寄ったTSUTAYAで新作コーナーを眺めていると、“半崎美子”という文字を見つけた。

「うた弁」というタイトルの、お弁当の写真が特徴的なそのCDを手に取ると、『メジャーデビュー初のミニアルバム』と紹介文が書かれていた。

思いがけない場所での出会いに、懐かしいあの時の空気や様々な記憶が蘇った。

初めて見たライブから、また見に行けたらいいなとホームページを見てはいたけれど、まだ当時は一人で出かけることにも臆病で、近くの会場に来てくれたらいいなと思いながら待っているだけだった。

そうこうしているうちに月日が経ち、あの時のお姉さんがメジャデビューを果たすという知らせを、私はあの場で初めて知った。

 

メジャーデビューを知ってから数日後、テレビを見ていると次週の番組予告が流れた。

それは日テレの「深イイ話」の次週予告で、そこに映っていたのは半崎美子さんだった。一瞬でわかった。変わりなく、ショッピングモールでCDを手渡すその姿とその声に、半崎美子さんだ!と声をあげて父に知らせた。

番組はもちろん、しっかり録画をしながら見た。すごいな…本当にメジャーデビューされたんだな…と思っていると、間髪入れずに、更なる驚きが待っていた。

 

2017年6月18日放送の「関ジャム完全燃SHOW」で、蔦谷好位置さん、いしわたり淳治さん、tofubeatsさんの3人が紹介する上半期ベストソングという企画の中で、いしわたり淳治さんがなんと半崎美子さんの曲「お弁当箱のうた〜あなたへのお手紙〜」をランキング内で紹介されたのだった。

毎週食い入るように見ている「関ジャム」に、半崎美子さんの曲が流れている。

もう、感動という次元ではなかった。驚きすぎて、嬉しすぎて、口に手を当てて固まるしかなかった。

しかも紹介していたのはいしわたり淳治さんで、言葉の紡ぎ方に心を掴まれて自分の尊敬している方が、この曲がいいと紹介をされている。いしわたり淳治さんの言葉で。そしてそれを関ジャニ∞が聞いている。なんて凄いことなんだと、衝撃が収まらなかった。

 

この時の紹介を聞いて初めて、NHKみんなのうたで「お弁当箱のうた」が流れているということを知った。私が勝手に嬉しいなと感動したのは、いしわたり淳治さんが着目した点が「お弁当箱のうた〜あなたへのお手紙〜」に込められたメッセージと曲そのものへの魅力についてであったことだった。

歌を聴いていると涙が溢れることも、ショッピングモールで歌い続けることも、半崎美子さんの魅力であり努力であるけれど、それだけではなく、半崎美子さんの曲そのものと歌声にどれほどの魅力があるかということを純粋にシンプルに伝えてくれた、いしわたり淳治さんはやっぱり事の本質を見抜く方だと、嬉しい気持ちでいっぱいになった。

 

あの時から音楽は好きで関心を持っていたけど、まだ自分なりの自己表現の仕方を見つけられずにいて、あの頃はライブ写真を撮ることを仕事にしたいと思っていた。

今も写真が好きで、人物写真を撮りたいという思いは持っているけれど、こうして文章を書くことを見つけて、今はそうした形を通して音楽やエンターテイメントを創る過程に携わりたいと考えるようになった。

こうして自分の文章で半崎美子さんの歌について思いを綴る日が来るとは想像もしていなかったけど、もっと胸を張れる自分になって、また半崎美子さんの歌を聴きに行けるように。

半崎美子さんが歌い続けてきたこれまで、そしてこれからを見つめていく一人に私もなりたい。