渋くて寡黙で魅力的「8UPPERS」

 

関ジャニ∞による関ジャニ∞の映画。そんな素敵な映像作品があるんです。

リアルタイムで追いかけたかった、素敵すぎる2010年の大規模プロジェクト。隠されたサインがシングルのリリースと同時に徐々に明らかになっていって、全てが繋がった瞬間に分かる、「8UPPERS」(パッチアッパーズ

監督は中村哲平さん。後に関ジャニ∞のMVやライブのオープニング映像も監督されていて、「8UPPERS」は長編音楽映画として作られ、プロジェクトの最後には、「8UPPERS」という世界観を引っ提げてのライブ。なんて素敵な。

映画のキャラクターが実現化してその場で見られるなんて、自分がそんな体験をしていたら4,000字どころではない記事を書いてしまう。

 

それぞれに寂しさを持った役柄をメンバーが演じていて、主役は関ジャニ∞

幼いときに施設に預けられて育った彼らが、

表向きはBAR EIGHTで共に働き、裏の顔は始末屋として働いている。

ある時、受けてしまった依頼によって赤ちゃんの世話をすることになり、自分よりも弱い守られる必要のある赤ちゃんという存在に出会うことで、少しずつ変わりはじめる彼ら。

 

映像自体は「8UPPERS」初回盤に収録されている。

実際に映画館で期間限定での上映もされたと聞いて、あのタイトルが出る瞬間を見たかったと心底思った。映画館のスクリーンで映し出されることを前提に考えられているような、古びたフィルム調のプツプツ途切れる加工が良い。

作中に「8UPPERS」のアルバムに収録されている曲が一つ一つ流れるので、映画を観た後にアルバムを聴くと、サントラのような役割を果たしていて、不思議な感覚になる。

曲のためのPVじゃなくて、映像があってのアルバム、アルバムがあっての映像。そのどちらもが対等に成立している凄さを感じた。

 

役名は、
横山裕さんはマック、村上信五さんはジャッキー、渋谷すばるさんはアーセナル大倉忠義さんはジョニー、丸山隆平さんはガム、安田章大さんはトッポ、錦戸亮さんはエース
預けられた赤ちゃんは、えいとと名づけられる。

 

この映画の、タイトルバックに繋がる映像が本当に好きで、夜の街を細身のスーツを身にまとった7人が歩いて行くその背中と、夜に染まる街のネオンがなんだか切なく寂しくさせる。

地面に広がる水溜りが灯りを反射させて逆さに見えていて、革靴で濡れる足元など気にも留めずに歩く姿は、暗い夜に上も下も無いような空気を感じた。

メイキングを見たら、ちゃんと意図的に車で水を撒いていて、そこまで計算して演出をするんだと感動した。偶然に雨が降ったわけじゃなく、演出だったんだと知ることができて。

“夜の街に消えて行く”って、こういうことだと思った。

 

自分の気持ちがやさぐれているときに「8UPPERS」を見ると、ほっとする。孤独があってはいけないものではなくて、それぞれ孤独を抱えながらでも一緒にすごせる誰かがいればやっていけるんだと思えるような。

 

「8UPPERS」を見て一番印象的だったのは、村上信五さんの演技の間合いだった。

一字一句覚えたくなったほど、好きなシーン。

依頼者を待つミニバスの中で、マック、ジャッキー、トッポの3人で話しているシーン。3人での会話が、セリフのテンポも言い方も絶妙で。

関ジャニ∞として長い間、時間を共にしてきたからこそできる空気感があって、メンバーだけで映画を撮ることの魅力がここに詰まっている気がした。

トッポとマックに相手にされずに、でも嬉々と話すジャッキーが可愛すぎて。改造したフォーク見せても2人は無反応、でもめげない。そこがいい。

「要は充実した人生送ってたら、太ーく!短くー!でいいわけさ」の、やいやい感はそう出せるものじゃないなと思う。

このシーンで特に好きなのが、「や、哲学やん、人生哲学やん、俺の。」の言い方。嬉しそうな表情とジェスチャーも込みで。トッポに対してのリアクションの「よっしゃ?」までの流れがいい。

村上さん、言葉の間合いを掴むセンスがとてもあるかたなのだと思う。バラエティーに出ることが多いけど、リズム感があって、自然体。セリフを言ってるというより、話してる。

 

哺乳瓶を選ぶシーンの「プラッチックやろ」は耳にインパクト大すぎて、しばらくプラスチックと聞くたびに“プラッチック…”と頭の中で言い直してしまう癖がついた。

 

村上さん演じるジャッキーのことで言うと、銃を構えた相手に詰め寄って、巧みに言葉で翻弄し銃を取り上げるシーン。

初めて見た時、あの状況でどうするのかと固唾を飲んで見守る気持ちでいたら、あんなにお洒落に仕掛けるものだから感動してしまって。銃を奪う一連の動きが本当にスマートで、動きが引っ掛かったり迷ったりしていない。目線もブレない。あのシーンでキョロキョロと目線が泳いでしまっていると、自信が無いように見えてしまい緊張感が失われてしまうけど、目線は手元を見ずに相手を見て逸らさない。それがすごい。

そしてそのまま、渋谷すばるさん演じるアーセナルに、銃をノールックで手渡す。銃を外して弾を落とすアーセナル。無言のやり取りが渋い。

アーセナルは銃に詳しく扱いに慣れているから、話術に長けているジャッキーに、もしものときの作戦を仕込んだのはアーセナルなのではと個人的に思っている。

 

 

エースがえいとと向き合うことで変わっていくのをアーセナルが目の当たりにして、その様子をもう少し見ていようか迷って、結局立ち去ってしまうシーンでは、アーセナルの細かい心情の移り変わりがよく見えて、

見ていようか→やめようか→でもあと少し→いやもういい

この順番の心境が混ざらずに、わざとらしくなく。二段階ならまだしも、やめようとして思いとどまり、やっぱりやめるという複雑さを表現していてすごいと思った。

 

えいとを前に抱いたまま、うんざり顔をした後、銃を両手で回し持って目つきが変わるアーセナルのシーンも、あのテンポ感と渋谷さん含めメンバーの演技が好きで。

代わる代わるアーセナルを茶化すみたいに肩をぽんとたたいて行ったり、ねっちょり頬を撫でて行ったりするんだけど、そのメンバーごとの個性が見えて楽しい。

渋谷さんの目は、一度閉じて開くだけで意味を持つ瞳だと思う。戸惑いも決心も、セリフがなくてもはっきり伝わる。

 

 

みんなの中に馴染みはじめたえいとが、一人ぽつんと離れて座るアーセナルをじーっと見ているシーンがあって、このシーンは本当にすごいなと感動する。その場の空気が出来ていたから、赤ちゃんは純粋に、あの人はなんで離れているんだろうと気にしたんじゃないかなと思う。

大人と大人の演技じゃなく、相手が赤ちゃんだからこそ引き出される演技の魅力も強く感じた。

いつ泣くか、どこを見るか、どんな動きをするかわからない赤ちゃんとの演技だと、役柄と本人が時折まざって見える気がして、きゅんとくる。

それを特に感じたのは、えいとがパッと目を合わせた瞬間のエースの目の色。

撮影中に泣いてばかりいた赤ちゃんが泣き止んでいて、エースの方を見たというだけでも奇跡だと思った。しかし錦戸さんの表情がさらに印象的で、それまで威嚇をし続ける犬のような威圧感を発してきたエースが、えいとの前に座ったとき、本当に弱々しく、いまにも泣きそうな子犬のような瞳でいるから、その雰囲気の変わりようにドキッとした。

セリフのないシーン。だけどエースの気持ちは充分伝わる。赤ちゃんと目が合ったチャンスを逃さずに演技をする錦戸さんに感動した。

ほかのシーンでも、おもちゃ売り場のシーンで大きな声を出した後、びっくりしたであろう男の子にさりげなく手をのばして気遣う、そういう錦戸さんが好きだ。

 

登場人物ひとりひとりの距離感は、バックグラウンドストーリーを読むとわかってくる。それぞれに関係性があって、アーセナルがえいとを抱き上げた時の少し不安そうなジョニーの表情は親心なんだろうなと印象に残った。

マックとジャッキーの距離感も絶妙。村上さんと横山さんが普段でも阿吽の呼吸なんだなと、関ジャニ∞を知り始めて間もなかった自分が理解したのは、「8UPPERS」での役の上でもその空気感が出ていたからだと思う。

絵本で号泣するマックは面白すぎて可愛すぎるので、ぜひとも見てほしい。そんなマックに、ん?って顔をしながらもリアクション薄めに返すジョニーもひっくるめて面白い。

ガムのセリフの「3っつのミルクが入ってんねんー」の言い方も好き。

全体的にはシリアスな空気が流れているけど、可愛らしさもいっぱいある。回るジャングルジムのてっぺんに座ってぐるぐる回るアーセナルも、水色のワーゲンバスも。

 

 

改めて、7人いるなかで、最も気になるのは誰だろうと考えると、トッポかなと思った。

えいとの世話係になって、「俺だけこんな目に合うんいやや」とみんなを引っ張り込んで協力させるところや、いやがりながらも子供服を見て楽しくなっているところ、子供のようにえいとと一緒になって寝入ってしまうところ

最も幼さを残しているのはトッポに見えた。

寂しさを素直に出しているのもトッポで、でもメガネを掛けて自分にベールをまとい、周りの目を気にしている。そうして行ったり来たりして揺れ動いているのが分かるトッポが好きだ。

 

「8UPPERS」のアルバムに入っている、「願い」という曲。

静かなバラードで、大倉さんの優しい声で始まるゆったりした曲調が心地よくて、でも悲しさもある曲。自分のなかで、「8UPPERS」のイメージはこの曲が強い。

 

6年前の2010年、撮影期間を含めると前後するかもしれないけれど、あの時の関ジャニ∞で撮っていてくれてよかったなと思う。近いようで遠い6年前。遠くに感じるのは変化がしっかり刻まれてきたからで、それは今撮ったとしたら、さらに新しいものになるということだと思う。

いつか渋みを増した関ジャニ∞の、今だからできる8UPPERSも見てみたい。