閃光のように届く

 

渋谷すばるさんの歌声には言いようのない引力がある。

丸山隆平さんの声が、ゴールデンラインに乗る瞬間の美しさとするなら、渋谷すばるさんの声は基本がゴールデンライン

ブルースであり、ロックであり、演歌。

 

音楽番組「関ジャム」での渋谷すばるさんは、見るたびに印象が変わる魅力がある。

引き出しというよりは、開けても開けても色の違うドアが続いていく感覚。蒼かったり、朱赤色だったり、その曲ごとに声色が変わり、曲の雰囲気を活かす声をつくる。

 

浪花いろは節」の、渋谷さんが一人歌い上げるコーラスパートがとても好きで、いつもその声を聞こうと全力で耳をすまし聴き入ってしまう。

発しているのは “あ” という一音で、それなのに歌詞を歌っているかのような表現力がある。哀愁があって、懐かしいような空気が流れてくるようで。

声が生み出す波が本当に美しく、演歌の良さをまだ理解できていない自分に、こぶしの心地良さを教えてくれたのはこの曲だった。

 

関ジャムで、マイケルジャクソンの「She's out of my life」を東山さんからの指名で歌ったことがあった。

英単語を綺麗に発音しようというよりは、歌詞の世界観を重視した歌い方だと、その時感じた。綺麗に発音されているところもあるけれど、きっと大事にしたいのはそういう所ではないのだと伝わってきた気がした。

「She's out of my life」“彼女が僕の人生からいなくなってしまった” と嘆くその歌詞は悲痛で、彼女が離れて行ってしまうというニュアンスよりも、僕の人生の中に居た彼女が出て行ってしまったという意味として、私は受け取っている。自分の人生ではない人生の中で生き始めてしまった彼女。

そんな悲しい男性の心情を、声とキーボードの音のみで表現するのは、簡単なことではないと思う。しかも全文英語。ネイティブのような完成度を目指したとしても、本国の人が歌うものには敵わない。だからこそ、伝えたい思いを伝えることを優先したんだと、そんなふうに思った。

 

 

特に渋谷すばるさんの声の魅力を強く感じるポイントだと思うのは、歌謡曲と女性視点の詞。

謡曲が好きだという個人的な好みもあるけれど、「二人の涙雨」や「My Last Train」が染みる曲になっているのは、渋谷さんのボーカルあってだと思う。歌謡曲で言うと村上信五さんのボーカルもとても相性が良くて、情緒がある。

 

そして女性視点の詞。不思議なほど相性がバツグンなのはなぜなのだろう。

男らしさが強くなり過ぎず、女々しすぎるわけでもない。なのに女性が歌うよりも女性らしいと感じる瞬間がある。一人で歌っているのに、デュエットを見ているような気持ちになる。

ソロアルバム「歌」でカバーした、松田聖子さんの「SWEET MEMORIES」を聴いて、更にその魅力に引き込まれた。女性視点であり、口調も日常ではもうあまり聞かないくらいの女性らしい喋り口調になっているこの曲を、こんなふうに歌うことができるんだと感動したのを覚えている。

Aメロ、Bメロと歌い、最後にくる “SWEET MEMORIES” の部分で力を抜いて柔らかく優しい声へ切り替えた瞬間が、とても素敵だった。

その部分へ来るまでは、男性寄りのボーカルで運び、“甘い記憶 SWEET MEMORIES”のところで一気に甘い歌声に変わるものだから、グッときてしまって。歌詞に出てくる女性にまんまと引っかかったような、そんな悔しさもあり、男性側の気持ちさえ分かってしまうような感覚になった。

映画「味園ユニバース」でも、「赤いスイートピー」を歌うシーンがある。見た目とのギャップがすごすぎて混乱しそうなほど、あんなに可憐に“帰れない”と奥ゆかしく歌うことは、女性であってもそうは出来ない。

 

これからも女性視点の曲を歌う渋谷すばるさんをどんどん見たい。かなうことなら、女性視点の曲くくりでのアルバムを聴いてみたい。そしてそのアルバムでいつか聴きたいのは「オリビアを聴きながら」。渋谷さんの声で、“疲れ果てたあなた 私の幻を愛したの”という歌詞が聴きたい。

 

さらにもう一曲、いつか必ず音源化してほしい曲がある。

PRINCESS PRINCESSの「M」

渋谷すばるさんの声が心底好きだと実感したのが、つい最近偶然に「関ジャニ∞の仕分け」で渋谷さんが歌ったプリンセスプリンセス「M」を聴いた時だった。

凄い。

そんな言葉しか出ないほど、好きすぎる声だった。

優しい歌い出しから、最大限の盛り上がりでサビに入り、“あなたの声 聞きたくて”の歌詞で切なさが爆発する感じ。見ていた村上さんが意図せずふっと微笑む気持ちもわかる。

渋谷さんが歌う恋の歌を聴くと、恋をしていなくとも、なぜだか泣きそうになる。知りもしない誰かを思って、泣けてしまう。それほどの世界観を作り込む力を持っている声だと思う。

 

「元気が出るLIVE‼︎」のDVDで、「ズッコケ男道」をバンド演奏する場面があった。あの日大倉さんが急病により出演することができなかった状況もあるとは思うけれど、私はあの「ほら」の声に胸を打たれた。

なんと言うのが適切なのかわからない。わからないけれど、ただ煽るのではない、見に来ていたファンへ向けての声であり、渋谷さん自身へ向けた声でもあるように感じたあの言葉から、あの日会場に居なかった自分にさえも伝わるものがあった。

 

 

真っ赤なマイクコードを握りしめ、ステージに立つ姿。

「TWL」を歌う時、「届いてますか!」と歌詞に合わせて問い掛ける声。

ツブサニコイ」で、負いきれなくなりそうなほどの力を込めて歌う姿。

渋谷すばるさんを見ていると、届ける、その一心でひたすらにいるのだろうと、伝わりすぎるほど伝わってくるときがある。

それは見ている人を近くに感じているというより、どれだけ距離があろうが、周りに阻む余計なものがあろうが関係ないと、全てを突き抜けていくというような気迫。そんなふうに感じる。

距離なんてないということではなくて、時折届かなくなるほどの距離が生じることを知っている人の言葉だと思う瞬間がある。

そんな姿勢が、一人で戦っていたり、孤独の中に居る、自分は含まれていないのではと思う誰かにもきっと届いて、引っ張り戻す力になるのだろうと思う。

東京ドームの景色のなか、真っ直ぐ光るライトがステージまで何の隔たりもなく照らしているのを見たように、渋谷すばるさんの声は直線で走る閃光のようなイメージだ。

 

私にはまだ、渋谷すばるさんがつかめない。全て分かるはずはなく、これからもつかめないと思う。

でも、魅了されて仕方がない渋谷すばるさんの謎を追いかけたい。