【Page3】丸山隆平さん主演 舞台「マクベス」印象に残ったこと。

 

丸山隆平さんがマクベスを演じた、舞台「マクベス

6月26日から始まり、7月24日に千秋楽を迎えて、全31公演。

あれだけの熱量で、1日2公演する日もあったのだから本当にすごい。

 

まだ書く?と自分でも思うけども、マクベスについての記事、第三弾。

 場面ごとに、書いていきたいと思う。

 

 今も鮮明に覚えているシーンがある。
マクベスだ」と高らかに言った後、「その名前ほど憎むべきものはない」と言われて、返した「ああ?」という一声。
一度観た時はそこまで気に留めていなくて、半笑いで相手をバカにするように言っていた気がしたその一言を、二度目の時は背筋が凍るような虚無感に満ちた声で、息を吐くように発したあの一瞬が、衝撃だった。
高くもない、意図して低くしているわけでもない。マクベスとして、本心から出た「ああ?」だった。だからこそ、恐かった。
 
そしてもうひとつ。
マクダフと対峙して、剣を踏みつける一連の動きが、本当に美しかった。
マクダフが持っていた剣を、剣で叩き落とし、落ち掛ける剣を空でカシャンッと踏み落とした動き。華麗すぎて、おお…と息を飲んだ。
無駄がなく、動きが身体に染みついているのだな…と感じた瞬間だった。

 

 

マクベスの中に、まだ理性あるのだと微かに感じられるシーンを見るとつらかった。

王冠を手にしたのに案ずることの出来ない自らの心に苦悩し、心安らかでなければ王でいる意味がないと嘆くマクベス

本当にその通りだと、だからやめていたらよかったのにと、親のような目線で見てしまう。

力ずくで手にしたものは、すぐに奪われる恐れに支配されて、安心してなどいられない。現代でもそうだ…と考えながら観ていた。

 

レックスを怒りに任せて、怒鳴り突き飛ばすマクベス。別のシーンで、仲間の兵士と話しをしながらアレックスは右脚をさすっているのだけど、その右脚をマクベスは踏みつける。

心の荒れ狂う様をはっきりと表しているシーンだけれど、やはり胸が痛い。

 


マクダフが怒り狂い、マルカムから復讐するのだとけしかけられる場面。

「やつには子供がいないのだ!!」と叫んだマクダフの悲痛な思いが、心に突き刺さるようだった。確かにその通りなのである。わが子を失う苦しみは、子を持つ人間にしか感じきることはできない。だからやるせない。
自分と同じ思いを、マクベス自身を殺すことではなく、家族を失うことで思い知らせることができないから。


始め、戦闘から帰り、マクベスとバンクォーが国王に褒められる場面。
バンクォーとの目配せが多く、スッと目を合わせて左ひざをつく二人の仕草が様になっていて、格好よかった。

その後も、事あるごとに顔を見合わせ、バンクォーがお褒めにあずかる時には、思わず誇らし気にバンクォーの後ろ隣へと駆け寄ったフリーアンスをマクベスが見上げ、微笑んだりしていた。

この時はこんなに優しい目でフリーアンスを見つめていたのに、どうしてここまでマクベスが狂ってしまったのだろうと思ったけれど、“子供、子孫”として考えると、フリーアンスを見ていることはマクベスにとって苦しみや嫉妬の気持ちを湧き上がらせる元だったのではと思った。

自分に無いものを持っていて、しかも後に子孫が王となるだろうと預言されているバンクォーへの思いは、簡単なものではなかったのかもしれない。


ダンカン国王暗殺の前夜に、フリーアンスが階段上から身を乗り出してマクベスに「おやすみなさい!」と元気よく挨拶し、それを見上げるマクベスが「おやすみ」と優しく答えた後に、フリーアンスが嬉しさを噛みしめるようにクゥッと声にならない声を発して行ったのが可愛くて、たまらなかった。

マクベスの、一呼吸置いての「おやすみ」。絶妙な間で、すごい破壊力。そりゃあフリーアンスもテンション上がるはずだ。

それを階段の下でバンクォーも見ていて、「なんだあいつ」と笑っているのが微笑ましくて、この3人の日常をもっと見ていたかったな…と思った。


 
バンクォーはやはり、マクベスのしたことにしっかりと気づいていて、目も合わせず、マクベスのことを「閣下」としか呼ばなくなった。そんなバンクォーに、マクベスは何を思っただろう。

親友であったはずのマクベスとバンクォー。魔物からの預言に取り憑かれてしまわなければ、二人はまた違う形でいられたかもしれないのに。そう思うと、とても悲しかった。


 
恐いものに滅法弱い自分が、「マクベス」を観るのは中々の課題でもあったのだけど…とくにバンクォーが亡霊となって現れて、テーブルの下へと消えていくシーン。

怯えたままのマクベスが、這いながらテーブルクロスに近づくと、間を空けて、バッと出てくるバンクォー。ここが怖すぎる。

二度目でも、完全に油断していてビクゥッ!となった。恥ずかしいくらい、座席でビクゥッ!となった。普通に恐い。


剣でやりあい、拳での殴り合いになり、馬乗りになって殴られ殴るマクベスとマクダフ。

髪を掴まれもみ合うも、果てに互いに刺してしまうシーンは、マクベスが一方的に刺されただけではなかったところに、救いというか…なにかある気がした。

本を読んでいた頃は、てっきり、マクベスが一方的に刺され死んでいくのだと想像していたから。

  

ロスの残忍さには、言葉が出ない。寝返って、寝返って、寝返って。都合のいい時ばかり、自分の得になる方を常に選び分け、忠誠とは程遠い。

しかし最も大きな声で「閣下!」と呼ぶのもロスだった。ロスの人を選ぶ目線を、マクベスは気づいていたのではないか。

回想で、手柄を象徴する金の首飾りを見もせずに投げ渡したマクベスの行動によって、ロスはアレックスを睨み、アレックスは鼻で笑うけれど、マクベスの真意はどうだったのだろう。

 

 

自分が観に行った公演で、短剣を追う場面でマクベスのサスペンダーが外れ、ぶら下がってしまうハプニングがあった。振りに支障がないように、さっと手で押さえる仕草がスマートで、とっさの判断も素晴らしいと思った。

そして、マクベスとしての動きが体に馴染んでいるのが目に見えて、さらにジャケット捌きが本当に上手くなっていた。衣装も扱いこなしていて、細部までの見え方をしっかりと分かっているように感じられた。何かを跨ぎ、ファサッとジャケットの裾をひるがえした時は息を飲んだ。あまりにも自然で。

 

門の鍵を誰が開けに行くのかで魔物3人がわちゃわちゃした時に、じゃんけんをしていたけど、その掛け声が、「いいわ悪いで 悪いわいい」だった。お茶目なの?

そんなふうに、時折クスッと笑えたり、笑顔になれるポイントが公演前半に比べ、増えていたように感じた。アンガスとのやりとりや、お医者さんの台詞の言い方が少しコミカルになっていたりして。常に緊迫しっぱなしの舞台において、少しホッとできるシーンは心の拠り所だった。

 

ダンカン国王を殺してしまった苦しみに押しつぶされて、あああ!!と発狂するシーンで、マクベスが壁を足でガンッガン蹴り飛ばすのを見ているのはつらかった。

本当に痛そうで。容赦なくぶつけていたから、革靴越しとはいえアザだらけなのでは…と思った。グーで拳も打ちつけるから、見ているこちらが痛かった。

 

そしてさらに、今回の舞台「マクベス」で特に印象に残ったのは、魔物の動きのしなやかさだった。
物音一つしない。軽やかに飛び乗って、足音を立てずに歩く。
国王が夫人を探しに来て、マクベスは右の階段に身を隠す場面で、手すりに掴まりしゃがみこんで息を殺しているマクベスを、魔物3人が取り囲むシーン。その時の、ハットを被った長男の手と指の動かし方が、本当に気味が悪かった。手すりに這うように指先を動かし、マクベスの手をかすめる。
コンテンポラリーダンスに馴染みがなかった自分にも、その動きの美しさは所作のひとつひとつから理解することができた。 

 

 

新しいものではなく、古来から演じ続けられている作品を観るという経験自体、初めてのことだったけれど、独特の緊張感やその演目を演じることに重みがあるということも肌で感じて、不思議な感覚だった。

知り尽くされてきた内容だからこそ、注目するひとがいて、どんな演じ方をするのか、どんな演出になるのかを見ているシェイクスピアを好きなひとたちがいて。

そんな重圧のなかで、31公演。マクベスを演じ続けたことがどれだけの大変さであったか、計り知れないけれど、カンパニーの皆さん全員で走り抜け、無事に幕を閉じられて本当によかったと安堵する気持ちでいっぱいです。

 

舞台は古典も面白いぞ、演劇と言っても、いろんな扉があるんだぞと、教えてもらった舞台だった。

舞台を観て、感情を揺さぶられ思いが止まらなくなる経験をするたびに、私はこの感動を原動力に生きているなと感じる。

次はどんな舞台でこのスイッチが入るのか、一度入ると忙しくてしょうがなくなるのでしばらく静かにしていたい気もするけれど、新たな舞台との出会いを楽しみに、わくわくしていたい。