思い出が故郷になる - 第9話「‪いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう‬」感想

 

ちゃんと描き終えてから渡したい似顔絵を、音から取り上げて、途中のまま練に渡した朝陽。

音の抑え込んだ表情が、第1話の無理に決められた婚約者に向けたものと似ていて悲しかった。


木穂子さんが静恵さんの家にやって来たタイミングも印象的だった。

「音ちゃんに彼氏ができたり」の後の、「ん?」が。「んん?」がズバリで。

「“あっ”て思ったの」

その表現が、繊細な心の内を表していると思った。

“あっ”。言語化する何かじゃなく空気で感じる、人の想い。

「優しいと、優しすぎるは違うよ?」

この言葉にまた、本当にそうだなと痛感する。

あっけらかんと練にああ言えるのは木穂子さんだけ。スイートポテトのタルト、おいしそうだった。


眠る前、メールのシーン。

寝ようとして、でも音にメールを送りたくて。

ここの表現って一歩違えば、ただ浮気な関係性に酔う2人みたいになって、難しいところ。だから音の理性が働いて、お互いの思いに突っ走らなかったところはよかったなと思った。

多分ここで、好き。会いたい。と盛り上がられたら、見ていて引いてしまったと思う。

 

 

第9話は、朝陽にとっても大きな分岐点になる。

音と練が再会して、変わらないままのことがあると気づいて。記者を目指していた頃の先輩に会う。

音の生い立ちを取り繕ったことを、父親にバレていた。

言ってくれたらよかったのに…というような笑みが切なくて、朝陽は音がそれを分かった上で何も言わずにいたことを知るのが苦しかった。

「きつく当たったが、怒りも泣きもしなかった。自分を一度捨てたことのある人間なんだろうな」

この台詞が胸に残っている。

 

音の気持ちを引き戻したい。自分が変わってしまったことにも気づいてる。

「だけどいまさら戻れない」

朝陽はそう思ってしまった。自分はいまさら戻れない。一生懸命に尽くすと話すけど、それは朝陽も苦しそうな提案で、やりきれない。

朝陽からもう一度プロポーズをうけた帰り道、商店街で練を見つけた音。

困った人を放っておかない。むやみに怒らない。背中を小さくして歩いていく練の姿に、自分と居ても居なくても世界との察し方が変わらない練を見て、その音の表情…

人が恋に落ちる顔を見た。恋というよりもう、愛だった。

 


柿谷運送で、社長が話した故郷の話。

「故郷っていうのはさ、思い出のことなんじゃない?」

「そう思えば、帰る場所なんていくらでもあるし、これからもできるってこと」

この言葉が、見ていて嬉しくて。

私は、大阪にいっぱい思い出をつくろう。そうやって帰る場所になることだってあるんだと思えることが、希望のように感じられた。

 

「俺が嘘ついたことあるか?」

なんとも言えない練の顔。ドヤ顔で聞く佐引さん。

「あるか?」と再度の問いかけに、困った柴犬みたいな表情で頷きかけ…て首を横に振る…ようなリアクションの練が可愛かった。

 


木穂子さんと音は二人で鍋をするくらいの仲になっている。

実際は、高畑充希さんも有村架純さんも関西出身で関西弁は本場なのに、高畑充希さんがあえて下手なふうに「めっちゃ美味しいわ」と言って「へんな関西弁使うなや」とやり取りするのがおもしろかった。

 

お別れしてくると話す音に、

「音ちゃんには練やろ…」

声を詰まらせながら言う。駄々をこねるようにしゃがみ込む木穂子さんが優しくて切ない。

律儀さが音の気持ちを不自由にさせてしまう。

 

 

街中で出くわした、困っている様子の女の子。

「なに?」のトーンで関西出身だと理解して、関西弁で話すようにして緊張をほぐす、音の優しさが表れている。

「引ったくりだって」

「おい助けようぜ」

その声がどうしてかとても怖く聞こえて、状況の全体図を知らずに、善意だと信じて対応を横取りしていくことの危うさを感じた。

落ち着いて、まず話を聞いてほしい。なのにどんどんと突っ走って行ってしまう。

 

 

「夜が終わるのを、一緒に見ました」

 

練からの電話。

北海道にいた音が、飛び出して、引っ越し屋さんのトラックに乗ったあの日。二人は夜明けを見ていた。

“この人は、どうか、幸せでありますように”

これ以上ないほどに温かい。

幸せにしてあげようとか、自分のそばでそうあってほしいとかでもない。どこかでもいい。“この人は、どうか”と願われることの温もりが溢れているシーン。

 

「あなたはいつも、今日を必死に生きてて、明日を信じてる」

「世の中に希望がないからって、一人一人に希望がないわけじゃない。あなたを見てると、そう思います」

 

大変そう、頑張ってる、だけじゃなく。“明日を信じてる”、そんな音に魅力を感じている練が素敵だと思った。

 

音ちゃんが階段から突き落とされ怪我をした。職場に、朝陽に、連絡がいく。

音ちゃんはもう、ひとりじゃない。東京にはもう、音のことを思う人がこんなにいる。

 

第9話でこんな展開。この空気。いい方向に転ぶとは思えなくて。
リアルタイムで見ていて、本当に気が気じゃなかった。やめてよ、練としあわせになってよ。お願いだから。と思って見つめていた。

 

綺麗な空のはなしがしたい - 第8話「‪いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう‬」感想

 

会えて嬉しい、でも。

練くんが音に真っ直ぐ向き合うようになった、でも。


いまは音が、練に真っ直ぐには向き合えない。「プロポーズされてます」と正直に話す音だけど、歯切れが悪い。

話しながら、机の上にペンで星を作る様子が印象的で。大事な話であればあるほど、手持ち無沙汰で何か触っていたい感覚はわかるなあと思った。


「おめでとうございます」って言われて、うれしくない。

そんなふうに見える音の表情が、もうすべてだと感じた。

 


ディレクターズカット版では、小夏の台詞がもっとキツかったり、介護施設での所長の台詞がキツかったり。

ほんわかとするやり取りも増えていたけど、リアルが増していた。


園田さんとのことを忘れているとわかった音の顔。きんつばも、ゴリラを見に行った動物園も、朝陽は覚えていない。

きっと音にとって、目の前の朝陽がどんなに変わっていっても、それが大切な軸だった。

音の心がすう…っと離れてしまう瞬間を感じた。噛み合わない朝陽と音の思いが見ていてつらかった。

 

「結婚するか、別れるか、どっちかなんだよ」

追い込まれている朝陽の思い。

 

 

「また、サスケに会いに来てください」

「はい、またサスケに会いに行きます」

相手を思いやるとか、周りを思いやるとか、それは今いらなくて。

遠慮がどんどん難しくしていく。


朝陽の嘘を見抜いている父親。

朝陽を退席させて、話し始める父親に、「朝陽さんがまた戻ってきてから」と言った。そういう律儀なところが、音だなと思う。

音の本当の生い立ちを聞いても、音ではダメだと切り捨てることはしなかった朝陽の父親。

悪意ではないけれど、でも音を否定するには十分すぎる言葉の数々だった。朝陽を責めるわけでも、なにを言うわけでもなく、ただ立ち去った音。

朝陽の背中が切なくて。

 

 

「好きな人は?」「最初に思い浮かぶ人がいるでしょう」と言われて、

はっきりと思い浮かぶ人がいながら「わかんない」と悲しそうに言う、音の声が忘れられない。

音の関西弁が出る時はいつも、繕わない自分が顔を出している時で、

ケーキ…「誰かの誕生日やったん?」「誰の?」そこに気がつく洞察力。音の察しの良さは、時に自分の心を鎮めてしまう。

 

棚の奥にひっそりと置かれた、白桃の缶詰に気づく練のシーンは、通常版でもあっただろうか?

録画してあるものと、DVD BOXを交互に見ているから分からなくなっているとこがある。

 


ショートケーキの真ん中。いちごじゃなくて、いちごジャム。そういうとこ。

前にスーパーで、多分これだろうなというケーキを見つけて、買って食べたことがある。


福引きの話は、すごいと思った。

それぞれに見え方の違う“価値観”を、表しているシーン。台詞に引き込まれる。

「でも、この物干し良いですよ」

「そうですか?」

「うん、良いです」

「よかった。私が間違ってるのかなって思ってたから。こんなふうに思うの私だけかなって。同じふうに思う人いて、うれしいです」

わかってくれる人もいれば、わからないなって思う人もいる。

どっちがどうとかじゃなくて、同じだなって思える人が見つかることの特別さを感じる。

「杉原さんは、間違ってないですよ」

うれしいけど、受け取れないから。

「へえー」っと答える。


空の色の話を、音がする。

ちょっと怖い空。でも綺麗な空の話。

「今までずっとな、あん時見た空の話がしたかってん」

「誰にゆっても、伝わらへん気いして。伝わらへんかったらって思って、ゆわれへんかったんやけどな、ほんまに綺麗やったんやで。」

 

好きで仕方ないシーン、言葉だった。

誰か、わかる人がひとりいてくれたら。だけど、話して“何それ?”って伝わらなかった時の孤独感を知っているなら尚のこと、この人にならと思い切って話すのも怖い。

でも、ずっとしたい話を出来ずにいるのって、喉に何かが残り続けるみたいにきっと苦しくて、居心地が悪い。

「ほんまに綺麗やったんやで」

そう言えた音の目と、静かに受け止めた練の目。

 


ドアを開けた朝陽。言わせまいというタイミングで。

怒っている朝陽の表情を見ると、小さな音の部屋だから、ドアの前に立って聞こえていたのではと思った。音の本心を聞く機会でもあったけど、そんなことよりも渡したくないという朝陽の思いが強かったのだと。

 

おずおずと近づくから、こんなふうになってしまう。

もっとはっきり、走り抜けてしまえたらいいのにと思いながら見つめる第8話だった。

 

ドラマ「メンズ校」どこにもないここだけの夏

 

「今を犠牲にしなければ、未来は手に入りませんか」

先生に尋ねた、野上の質問にドキッとした。

そういうものだと諦めた枠から視点を変えたとき、どっちもが叶うかもしれないと思うことは、考えが青いだろうかと問われた気がした。

 

家の事情で海外へと行くことになった、鷹野エリカ。

“16歳には難しい”と、力が抜けていくように呟くエリカの言葉が胸に残っている。

納得いかなくても、どうにかしたくても、それが出来ない時がある。

 

 

チカを縛るもの
全部なくなれ!
そしてもっと自由になれ‼︎

牧の中学時代の同級生だった、春島エリカが本のカバー裏に隠した言葉には、そう書かれていた。

ほかのどんな言葉でもなく、エリカが牧に一番伝えたかったこと。

それを願ってくれる他者がいることが、どれだけ心強いか。無意識に縛っている自分に気づけることが、どんなに大切か。

 

“誰かの手を借りれば、希望が見える”と気づいた牧は、声も姿も輪郭がはっきりとしていて、

儚く何かを追いかけているような目線がようやく、目の前にいる野上、神木、桃井、源田、花井、藤木に向いたように見えた。

 

“そして自由になれ”ではなく、「そして“もっと”自由になれ!!」

今だってそうだよと肯定しながら、もっと広がるよと伝えているみたいで。

 

エリカの手書きで書かれた文字を見た時、心が揺さぶられた。

なにか大事なものを目にした気がして、思わずスマホで写真に撮った。放送のあと、エリカが書いた言葉の写った写真が公式に載せられた。それがすごくうれしくて、忘れないでいようとロック画面にしてから今も、スマホを開くとまずこの文字が目に入る。

閉じこもる牧の気持ち、自分 対 自分の部屋の中で、他者が入ること巻き込むことを自分が許せなくて、見失う自由。

 

今までは自由って抽象的だと、規模がわからないよなあと他人事でいたけど、「メンズ校」で、第10話で描かれた“自由”はよくわかった。

牧たちの歳の頃、そういう仲間を見つけることはできなかったけど、相当な時間をかけて殻から出ることができた。

だから尚更、エリカから牧へのメッセージが心に残る。見てよかった。この台詞を聞けてよかった。

 

 

和泉かねよしさんの描かれた漫画「メンズ校

それが、ドラマになった。

脚本は蛭田直美さん。10話と11話は蛭田直美さんと、いとう菜のはさんのお二人で書かれていて、最終回はいとう菜のはさん。

 

進学校であり、離島で隔離された男子校で過ごす“彼ら”を演じるのは、なにわ男子。

面倒ごとには関わらずにいたい、だけど相手の変化には無意識でも気付いている牧 主税を、道枝駿佑さん。

成績トップで難なく勉強ができるけど、いつも直球すぎて相手がキャッチできるかどうか考える余裕がない、伝えることに不器用な野上 英敏を、西畑大吾さん。

穏やかな存在感で周囲を気遣うけれど、自分の言いたいことが言い切れないときがある花井 衛を、長尾謙杜さん。

閉じこもっていた扉を自らの意思で開けて、仲間に入りたいと怯えながらも言葉にした桃井 天を、大西流星さん。

小銭を集めるのが習慣。仲間を見つめる眼差しには包容力があって、物事を楽しむことに長けている神木 累を、高橋恭平さん。

寡黙で表情には出にくいけど、思っていることはたくさん。「食」に興味があり、調味料を試行錯誤して味の追求に余念がない源田 新を、藤原丈一郎さん。

3年生で、先輩であり寮長。明るい挨拶、あっけらかんとした気質もありながら、すとんと恋に落ちたり進路の壁にぶつかり立ち尽くすこともある藤木 一郎を、大橋和也さん。

 

主題歌は、なにわ男子が歌う「アオハル -With U With Me-」

 

 

意味がないように思えることを真っ直ぐに楽しんでいる、源田や神木たちを見て「なんでこんなこと…」と呟いた桃井の気持ちがわかる。

何かを起こした結果がどこに到達するか、それを重要視する癖は簡単につく。

選んで捨てていった中でふと、大事なものも捨てている気がして、“無駄”がなんなのか分からなくなる。

「将来とか未来とか、そういうのに役立つことに時間使わないとダメなんじゃないの?」

そう聞いた桃井に、「立つだろ、役に。」と清々しく源田は答えて、

「もし将来、楽しくなくても役立つことにしか時間を使っちゃいけなくなったとき、絶対役立つだろ、今って。」

 

「うん、思い出すな、絶対。すげえ楽しかったって。」と神木も話して、

「思い出せば、きっと頑張れる。俺には、あんなおもしろいこと一緒にやった仲間がいるって。」

「未来に何が待ってても」

そうつづけた源田の言葉は、等身大の一人一人にも、実際にアイドルとして、なにわ男子というグループを形作っている一人一人にも大切な支えを託してくれているように感じた。

 

そしてハンググライダーの布に、“自分になりたい”と書いた桃井。

ずっと部屋にいて、見てたみんなの仲間になりたくて、その思いを原動力に制服を着て、校門を通って、学校の中に入って行った桃井はどれほど気持ちを振り絞ったんだろう。

藤木先輩からもらった干し芋を食べながら、遠巻きに眺めていたところから、輪に入っていけるようになった桃井と、なんだかんだで仲の良い藤木先輩コンビが愛くるしかった。

 

 

成長を見守ってもらうことのできる期間。モラトリアム期はもう過ぎている自分でも、彼らの姿に感じることはいっぱいあった。

過ごした学生時代を振り返っても、同じような眩しさはなくて、青春をアオハルと呼ぶのはいつからスタンダードになっていたのと思っていたくらい、距離を感じていたものだった。

でも、見守りたくなるメンズ校の彼らに出会って、新たな視点をもらった。

模索するのは学生期間だけじゃなくて、その先にもつづく。

 

本来なら夏の放送を予定していた、ドラマ「メンズ校」

全12話の最終回を迎えたのは、12月23日。

 

本人の中にない人物を演じる楽しさも、お芝居にはきっとある。

だけど今のなにわ男子が、年長組は高校時代を先に終えているとはいえ、今の歳に比較的近い年代の役柄をもらえたこと。グループ全員での出演という特別な機会で、揃って時間を積み重ねられたのは大切だったのだろうと思う。

 

同じクラスになることと、同じグループになること。

生まれた場所、年代。奇跡のような確率や、はじまりは決められて同じ場所にいて、段々と関係性が変わったり近づいたり。時には一旦間を開けてみたりすることを考えると、そのふたつは少し似ていると思う。

グループで活動するアイドルに、私は憧れに近い気持ちがある。

もうクラスを組むことも無ければ、ずっと一緒にいる必要性のある出会いを経験することはきっと無い。

ライブスタッフさんや舞台のスタッフさんに関心が向くのも同様に。仲間に入りたい。何度そう思いながらショーや舞台を観ていたか。

一緒にいる大変さは想像を上回ってあるのだろうと思う。だけど、グループでしか感じられないことがきっとある。

 

ドラマのエンディングと共に流れる「アオハル -With U With Me-」

ドラマ主題歌になる前に聴いたとき印象的に聴こえた、“空回りしちゃいけない わかっているんだ”という歌詞が、また印象を変えて聴こえた。

空回りでも、一見意味がないように思えても、その先でああ…とわかることがある。

夢中になって熱くなって行動しつづけた時間を、こんなふうに見つめることができるんだと感じたひと夏。

 

海と砂浜。

よーいどん!で走り出すビーチフラッグ。

ラムネの瓶の中にあるビー玉。アイスの棒に書かれた“アタリ”。

希望寮での夏は、どこにもないここだけの夏だった。