高橋優さんの「来し方行く末」を聴いた感想

 

高橋優さんのアルバム「来し方行く末」(きしかた ゆくすえ)

“来し方行く末”という名前が、字として見ても言葉として聞いても美しい。

ロゴのデザインからも伝わるように、「来」と「未」という漢字がそれぞれシンメトリーであること。末広がりであること。どちらも魅力的だなと感じた。ジャケット写真の高橋優さんが歩いていく景色は、晴れ渡っている空でも整えられた道でもなく、霧のかかっている先の見えない道であるところがいいなと思う。

静かに聴き込める環境を用意してから、アルバムを通して聴いた。「君の背景」「象」「BEAUTIFUL」が印象的だった。

  

「君の背景」

ひたむきな、恋人への想いが伝わってくる。ラブソングと言うには不器用で、けれど一生懸命に彼女を見つめる彼の視線がこの曲に溢れていた。

荷物くらい僕に持たせてよと言うのに、半分ずつの重さでしか持たせてくれない彼女と、ぎこちなくも彼女の隣を歩いていたいと思っている彼。

歌詞に出てくる二人にもどかしい距離があるからこそ、サビのメロディーが熱を持って際立って、切なさが込み上がってくる。ここまでストレートな「愛しているよ」という表現を高橋優さんがつかうことはめずらしいように感じる。簡単でも思いつきでもなく、思いが溢れた言葉として伝わってきた。水に浸すと浮かび上がる文字のようにじんわり広がる暖かさがあった。

アルバムの「拒む君の手を握る」という曲にも愛してるの言葉は出てくるけど、その意味合いは対照的であるかのようだった。

片方ずつの荷物を君はずっと離さなかった

という歌詞が耳に残る。この言葉だけで、彼だけでなく彼女も不器用なことが表れているところがいい。歌詞に出てくる“荷物”について、言葉通りの受け取り方だけでなく、形ではない気持ちの部分の例えとしても受け取れるように思う。

今までに聴いたことのない関係性の歌で、繊細な思いと素直な感情の混ざり合う描写が素敵だと感じた。 

 

「象」

関ジャニ∞へ高橋優さんが「象」という曲を提供をしてから、ついに聴くことができた高橋優さんの歌う「象」

スラップ、スピード、語尾が跳ね上がる歌い方。あまりアレンジは変えずにセルフカバーしたというなかでも、高橋優さんが歌うからこその個性が表れていた。

曲を聴いていて思い浮かんだのは、迷いを振りはらうかのように疾走している様子だった。迷いのさなか、左右の景色など目に止まらない速さでとにかく前へ走っているような。関ジャニ∞が歌う「象」が歩く道の先に居て見守っているイメージだとしたら、高橋優さんの歌う「象」は隣にいて今を共に戦っているイメージだった。

関ジャニ∞の冬のツアーでこの曲を直に聴くことができて、同じ2017年に高橋優さんの歌うこの曲を聴けることが、すごくうれしい。

 

 

「BEAUTIFUL」

高橋優さんの人柄が溢れ出ている。先回り先回りの優しさ。

言葉を一つ投げかけたとして、きっとこう答えるんだろうなとわかってしまう、思いやりと感情移入の深さが優しくて切ない。テレビ番組のA-studioでこの曲を歌う高橋優さんの声を聴いた時から、衝撃だった。この時に心を掴まれたから、ライブのチケットを取った。どうしてもこの歌声を直接同じ空間で聴きたいと思うほど、力のある歌だった。

言葉の一つ一つが丁寧で、相手を思う気持ちに満ちていて、高橋優さんの前では誰のどんな天邪鬼も敵わない。どの歌詞がよくてということではなく、高橋優さんがアルバムの最後にこの歌を置いたことが全てで、それにつきる。

思う人がいてこの詞を書いたということの意味。この曲のタイトルが「BEAUTIFUL」で、いっぱいの言葉に込めて伝えたいことは“君は美しい”に繋がるということの意味を時々考える。

考えるけれど、きっと自分はその意味をきちんと理解できていない。それは多分、“美しい”という言葉に持つイメージが、まだ“見かけ”に捉われているからだろうと思う。いつか美しいという言葉が持つ本当の意味を理解できるようになりたい。

 

今回の高橋優さんのライブツアー「来し方行く末」が、どんなセットリストなのか、まだ何も知らない。知らないままで当日を迎えることができそうで、わくわくしている。高橋優さんの声を聞いてどんなことを感じるのか。いつも聴いているあの曲は歌われるのか。

「来し方行く末」ライブまでは、あともう少し。

ライブDVD「JUKE BOX」で感じた空気感、映像だからこその良さ

 

形容しがたいあの時の関ジャニ∞がまとう空気。

開演直前、幕の向こうでスタンバイする様子を上からカメラが撮影していて、その映像から静かに始まるというオープニング。リアルタイムで観に行っていない自分でも、その緊張がオープニングの映像からドッと押し寄せてくる。

メイキングにも映っている開演前の彼らの表情を見ると、ステージに立てば迷いなく無敵に見えてしまう彼らも、始まる直前まで並々ならぬ緊張とプレッシャーを感じているんだと改めて気がついて、息を飲んだ。

幕の向こうにいるのは関ジャニ∞を見に来たお客さん。そのことをわかっていても、どんな空気が広がっているのか、どんなライブになるのか、走り抜けるまでわからない。ライブの楽しさはきっとそこにあるからこそ、毎回各公演、開演して無事に終演するまでは、ルートの分からないフルマラソンを走るようなものなのではないかと見ていて思った。ゴールは定まっているけれど、どんな道のりでそこへ持っていくかは、常に未知。

 

今のテレビなどに映る渋谷すばるさんを見て、それからさかのぼってDVDを見る人は、「JUKE BOX」や、2012年のライブツアー「EIGHT×EIGHTER」の映像を見て驚くのかもしれない。どちらがという話がしたいのではなくて、どちらもその時いた渋谷すばるさんだと思っている。

それでも、圧倒される。あまりの鬼気迫る声と表情に。自らを削ってでもという覚悟で体現しているようにも見えて、危うさを感じるほどの、凄まじい熱。

観ている側も覚悟を持ってしてでないと向き合えないような気持ちにさえなる。

 

「JUKE BOX」のライブDVDは、全体のカメラワークとして一瞬足りとも見逃したくない魅せ方になっていると感じた。

足元の映し方や、はじめからピントを合わせておかずにぼかして合わせて、またぼかしたりする遊び心。全体にピントが合うカメラと、奥行きのある、背景が綺麗にボケる単焦点レンズのようなカメラが使い分けられている感じも素敵だなと思う。あれだけ広いドームという会場で、どこから撮影してどの角度で映し、誰をカメラで抜くのか、何万通りの方法があるからこそ、撮影しているカメラさんやスイッチング、編集をしている表には見えないスタッフさんのこだわりを感じると、とても嬉しいし楽しい。

ライブの中盤『青春ノスタルジー』で、渋谷さんを映しながら、その後ろにセットの“JUKE BOX”の文字が背景に映り込むところは何度見てもグッとくる。

このツアーのテーマになっているジュークボックスのイメージを、曲のノスタルジックな雰囲気と共に視覚で印象づける大切な演出になっていると思う。そのステージ上のレコードのような丸いセットには唇マークが映っていたり“JUKE BOX”の文字が映っていたり、“ビースト”と曲名が映されていたりと、さりげない変化を見せるところも心憎い。

 

バンド演奏が多い印象の「JUKE BOX」だけど、『あおっぱな』や『TAKOYAKI in my heart』では楽しいダンス、『Sorry Sorry love』『Dye D?』でクールに魅せるダンス。一方『涙の答え』から『青春ノスタルジー』までのしっとり聴き込むセクションと、一つのライブの中で多くの面が観られるセットリストになっている。

あの時期だから固めておきたかったのだろうと思うバンドという形をはっきりと見せつつ、お客さんがどんなものを期待して観に来ているかも把握して織り交ぜていく。構成としてバンドはバンドでまとめてしまった方がきっとセット転換も楽なのだろうけど、バンドからダンス、歌、MC、ユニット曲、歌。そしてバンドへと流れをつける。

簡単なことではないはずなのに、その構成でいくと決めて、実際に3時間近くもの時間ステージに立ち続けるという気概がすごいと思った。

 

何度も見ているのに、今になっても新しく気がつくことがあり、この後ろでこんなことしてたのか!という発見をまだしている。

丸山さんが『West side!!』で、ピックをくわえて、歌う時はどうするんだろうそんな場面映ってたっけと注目して見ていると、歌う前にそのままフッとピックを飛ばしたところがしっかり映っていて、そんなことしてたのかー!!と衝撃を受けたり。『ビースト』で流れる映像に、さりげなくジュークボックスが映り込んでいたりすることにもやっと気がついた。

無責任ヒーロー』で村上さんがバックダンサーの“たこやきオールスターズ”に自ら馴染みに行っていて、バックダンサー用の振り付けを全力で踊っていることにも、今日まで気がつかなかった。思い切り盛り上がっているところで、村上さんはステージ中央にいるにも関わらずメンバーより一歩後ろでバックダンサーに徹するから、違和感が無さすぎて面白い。村上信五さんを探せ!みたいになっている。

 

『夕闇トレイン』では大倉さんのソロドラムから始まりイントロギターの印象的なフレーズが聞こえて、手拍子をあおる渋谷さんと村上さんの姿に胸が高鳴り、エレキギターの錦戸さんと安田さんが音で会話しているみたいにパートの掛け合いをしている様子が丁寧に映されているのもいい。

『あおっぱな』での衣装がメンバーカラーで、でも統一された形の服ではなく、それぞれの個性と特性を考えられたデザインになっているところが好きで、メンバーカラーで7人揃った時の7レンジャー感も関ジャニ∞ならではの魅力だなと、このシーンを見ていると思う。黒ジャケットな横山さんのネクタイがピンクなのが個人的にはたまらない。

カメラのことでいうと、『ココロ空モヨウ』の“とっくに雨は上がったのに”の歌詞がある部分で丸山さんが足元にあるカメラに覗き込むようにして挑発する感じもカメラを最大活用していて素晴らしい。『へそ曲がり』では大倉さんが下からあおって撮るカメラに向かって歌っている。

 

ライブ終盤の『Your WURLITZER』から『Eightpop!!!!!!!』までの4曲をドラムで叩き続ける大倉さんの頼もしさを見られるのもこのライブDVDの見所だと思う。『レスキューレスキュー』から『Eightpop!!!!!!!』なんて曲の間がほとんど無く、間髪入れずに次のリズムに入っている。ラスト叩き終えて、スティックも手からこぼれるように飛ばしてドラムセットになだれ込む大倉さん。そして画面が暗転。

ドラム専用カメラがしっかりおさえていて、その映像を曲の締めに入れるところがいい。力尽きた大倉さんを表すかのように画面を一度暗くするところも凝っていていい。

 

LIFE〜目の前の向こうへ〜』の締めを、大倉さんのドラム後ろ姿から映して、最後はカメラのフォーカスをぼかして終わる映像の演出も素晴らしかった。会場で観るのは会場で観るからこその臨場感があって、ライブDVDとなって映像として見るのはパッケージとして完成された映像だからこその演出があって、だから観に行ったライブでもDVDが出れば買わずにいられないなとしみじみ思った。むしろライブDVDが発売されて、落ち着いた視点で本編を見たのちメイキングを見て、特典映像を見てから、やっとツアーが完結するという気持ちでいる。

 

笑いたい気持ちの時にはアンコールの『イッツ・マイ・ソウル』を再生、を家訓にしようかなと思うくらいにこのDVDでの『イッツ・マイ・ソウル』を歌う渋谷すばるさんは面白い。村上さんが気に入って安田さんと大倉さんが笑い倒すくらいの全力の悪ふざけ。こんな大人が身近にいたら最高に楽しいはず。

初めて見た時にこれ以上ないほど衝撃を受けた『ビースト!』の無茶苦茶にカッコよくて無茶苦茶にふざけたパフォーマンスも、肩に力が入っている時に見るとふっと笑えて、それから仕事がんばろうと不思議とやる気が湧いてくる。

 

ライブの最後に『All is well』という曲を歌う。

私はこの時の空気感を体感してはいないのでわからない。わからないので推測にすぎないけど、この時はこの時の関ジャニ∞がグループとして、そして個々として、もがいて立ち向かっていたことがこのライブからひしひしと伝わってくる。そんな空気と緊張感のなかで歌うこの曲は意外なほど、穏やかで優しい。

ジリジリするのもこのライブで、温かさを感じるのもこのライブだった。

 

ベタ惚れしたボーカル。SHISHAMO「明日も」

 

有線から聞こえてきた声に引きつけられて、誰の曲かわからない。何と言う曲名なのかもわからない。仕事中なので検索するわけにもいかない…という状況になったのは初めてで。

思うよりも早くその謎は解けた。曲を聞いた翌日、ミュージックステーションを見ていたら聞こえた声に、“あの声だ!”と一致した。

 

SHISHAMO「明日も」

名前を聞いたら、CMで使われていたこととメロディーを思い出した。それでもCMの時と曲の印象が違って聞こえたのは、いいなあと耳に残っていたフレーズがBメロだったからかもしれない。

キャッチーさのあるAメロからBメロに移った時の転調で、メジャーからマイナーに変わる魅力を初めて実感した。「お お お」のフレーズと共に音程が一音ずつ変わって行くところからチャラランとギターを鳴らすところ、息を合わせるようにドラムのテンポが変わるところが好きで、手拍子の音も入ってくることで、落ち込んでいく歌詞とは相反して盛り上がりが増幅して、ゾワゾワっと楽しくなる。

ダメだ もうダメだ 立ち上がれない

と落ち込みながらも、マイナーからメジャーへとまた立ち上がり、自らを鼓舞していく不屈の姿勢。

しかも、自分で自分に応援の言葉をかけるというより、「ヒーロー」という存在が歌詞に出てくることが嬉しくて衝撃だった。“あなた”でも“彼”でもなく「ヒーロー」と表すことが特別で新鮮だった。自分にとってのヒーローが誰であっても、なにであっても、それでいいじゃない!と肯定されたような爽やかさがあった。

 週末は私のヒーローに会いにいく

ライブ、スポーツ、映画。自分にとってのヒーロー全てに当てはまるわけで、著名人でもアイドルでも社会の先輩でも、憧れの存在があることでこんなにも力に変えていけるじゃないかと気付かせてもらった。

 

ボーカルの宮崎朝子さんの声は、リラックス感がありつつも前のめりな空気がゆらゆら波のように揺れ動いて耳に残る。騒がしくしてしまうと儚く消えいってしまいそうな繊細さがありながら、ひた向きさが伝わる魅力を持っていて、意識を向けて聴き入りたくなる声だと感じた。

 

「明日も」を聴いて最もインパクトがあったのは裏声への移り変わり方の可憐さだった。

スピーカーから広い空間に流れていても、耳に届くハイトーン。

そんな時にいつも

誰よりも早く立ち上がるヒーローに会いたくて

という歌詞はこの曲の中で最も好きなフレーズで、そしてここで2度出てくる裏声が美しい。ふわっと上がる音程が心地よくて、何度もそこを聴きたくなる。

歌詞もこの二行で、人が頑張っていける原動力というものを言い表しているように感じて、思い浮かべられる存在がいるというのは嬉しいことだと思った。

 

はつらつな応援ソングとも、一週間を描いている曲と括ってしまうのも勿体なくて、一度俯瞰して曲を通して聴いてみてほしい。

ギターとベースとドラムの3人体制なバンドだからこそ、立ち位置がトライアングルになっている視覚的な均等な美しさ。魅力的な声。寡黙に演奏に徹しているからこそ目立つベースとドラムの存在感。ベースの松岡彩さんとドラムの吉川美冴貴さんのボーイッシュさもたまらなくつぼで、とくにドラムの吉川さんの演奏とリズムの取り方が格好いい。SHISHAMOにがっつりハマったら、私は吉川さんから目が離せないと思う。

 

私はギターを弾けるわけではないけど、弾いてみたくなるフレーズというのがこの曲ではいくつも出てくる。特に、曲の終わりで出てくる繰り返しのギターフレーズがシンプルだけれど耳に残る。そこにべースが同じメロディーラインで重なって、さらに数週遅れでドラムも加わり音に厚みが増して高揚感をあおって、最後にバツッと終わる締め方。ほんとズルいなあと何も言えなくなるほど。

 

泣きにかかる曲ではないのになぜか泣けてくる曲というのが時々あって、「明日も」がそうだった。がむしゃらで、全力で走りながら何度も転んで擦りむいて、挫けているけど諦めていない。それが最高に格好いい。

痛いけど走った 苦しいけど走った

報われるかなんて 分からないけど

とりあえずまだ 僕は折れない

言葉は力強く、でも歌声が泣いていて、その声に心が動く。 「とりあえずまだ」と歌う言葉選びにも、“先は分からないけど今は。”という人間味のある感情が出ていて好きだなと思う。言葉以上のニュアンスが声色に溢れているから、シンプルな歌詞でも深みが伝わる。

 

こんなに惹かれる歌詞を書いたのは誰なんだろうと調べたら、ボーカルの宮崎朝子さん作詞・作曲だと記載されていた。衝撃。声だけでなくて詞まで好きなんて、ベタ惚れじゃないですか。今はひたすら「明日も」をリピートしているけれど、他の曲も聴いてみたくなった。

まずは2月22日に発売になったアルバム「SHISHAMO 4」に「明日も」が収録されていると知ったから、早々に手に入れたい。YouTubeの再生では足りない。

 


SHISHAMO「明日も」